第5回:電動化時代の“フィアット・シン・パンダ”へ ― 小さな巨人のこれから

2025.04.25

画像引用:FIAT公式サイトより

2020年代、自動車業界は大きな転換点に差し掛かっている。電動化、自動運転、シェアリング、サステナビリティ…これらの波が同時多発的に押し寄せる中で、「フィアット・パンダ」という一台の小型車も、再び変化の時を迎えている。

40年以上にわたり進化を続けてきたこのクルマが、これからどんな姿に変わっていくのか。そして、それはただの電動化ではなく、「なぜパンダでなければならないのか」という問いに対する答えでもある。

パンダは死なず、再び“シン・パンダ”として生まれる

2024年7月、フィアットは次世代パンダをついに世界初公開すると発表。これまでの3代目とは一線を画す、完全新設計のEVベース車両であり、事実上の“第4世代パンダ”がついに姿を現すこととなった。

その名も「Nuova Panda(ヌオーヴァ・パンダ)」。クラシックな初代の精神と現代的なEV技術を融合させた、新時代のアイコンカーだ。

シンプルさの再定義:EVでも“軽く、賢く”

フィアットのチーフデザイナーはこう語る。

「電気自動車の時代にこそ、“軽さ”と“シンプルさ”が求められる。私たちは、バッテリーを積んだ“高価で重いEV”ではなく、スマートで親しみやすい、都市のための道具を目指した」

Nuova Pandaは、EVとしては異例とも言えるコンパクトかつ軽量な設計を実現。小型バッテリーでも実用的な航続距離を持ち、価格も欧州では“1万9000ユーロから”とアナウンスされており、まさに“新しい国民車”の名にふさわしい存在だ。

世界戦略車としての新たな使命

Nuova Pandaは、欧州市場だけでなく、南米・アジア・アフリカといった新興国市場への展開も視野に入れている。その意味で、もはや「イタリアの小型車」という枠を越え、「世界のエントリーカー」としてのミッションを担っている。

これは、かつて初代パンダが目指した「誰もが乗れるクルマ」「どんな道でも使える道具」としての原点回帰ともいえる。

“機能美”の思想はこれからも続く

EVであれ、ハイブリッドであれ、4WDであれ、パンダがパンダたる所以は「使いやすく、賢く、愛着が持てること」だ。それは技術の変化と関係なく、根底に流れ続けてきた不変の価値観である。

時代がどれだけ進んでも、パンダは「ちょっと便利で、ちょっと可愛い、ちょっと頼れる」存在として、私たちの日常を支え続けるだろう。


【連載まとめ:フィアット・パンダという思想】

  1. 第1回:すべては“合理性”から始まった ― 初代パンダの衝撃

  2. 第2回:国民車から“山の道具”へ ― パンダ4×4の誕生とその衝撃

  3. 第3回:デザインの刷新と実用性の継承 ― 2代目パンダという再出発

  4. 第4回:フィアット再生の象徴として ― 3代目パンダと現代の戦略

  5. 第5回:電動化時代の“シン・パンダ”へ ― 小さな巨人のこれから