512TRへと大幅なアップグレード

テスタロッサの正常進化版として登場した512TRは、より高いパフォーマンスを追求して開発されたこともあり、非常に完成度の高いクルマに仕上がっていた。
見た目が似ていたこともあり、一見するとテスタロッサから512TRへの進化は単なるマイナーチェンジとして片づけられがちだが、実はフルモデルチェンジといっても過言ではない大幅な改良が施されていた。
そういったこともあり、テスタロッサ系のラストモデルは入念に仕立て直された512TRであると目されていたが、1994年5月のパリ・サロンにおいて、512TRの後継モデルであるF512Mがデビューした。
テスタロッサ系モデルに再度のアップデートが施されたわけだが、エクステリア・デザインに関しては、F355のトレンドを盛り込もうとする狙いが強かった。
ヘッドライトがリトラクタブル式ではなく固定式になったが、フロントバンパーの造形や丸型4灯式になったテール・ランプなどから、F355をイメージさせようとする狙いを見て取れたのだ。
実際にF512Mは、見る者にF355をダイレクトにイメージさせたわけではないが、それまでのテスタロッサ系モデルとは明らかに異なる新鮮な印象を与えたといえるだろう。
180°V型12気筒ユニットの進化は続く
走りに関する部分では12気筒エンジンが改良された。
テスタロッサから512TRへの進化時にエンジン開発チームの尽力も空しく、新規設計のコンロッドを投入することができなかった。
コンピューターによる設計支援で512TRの開発時にコンロッドの改良を示唆していたといわれているが、時間切れとなり、新規に設計したコンロッドを使うことができなかったのだ。
そこで、エンジン開発チームの面々は、512TRからF512Mへのマイナーチェンジ時にチタン鍛造製となる新生コンロッドを組み込み、F113G型と名付けた新型ユニットを仕立てた。
このパーツグレードアップなどにより、公称の最高出力が440PSとなったF512Mは、フェラーリの12気筒ミッドシップという大きな看板を背負いながら孤軍奮闘することになった。
テスタロッサの系譜はF512Mで終焉。そして21世紀にその名は蘇る

1990年代に入ると、ランボルギーニからはディアブロが登場し、名門ブガッティからはパオロ・スタンツァーニがチーフエンジニアを務めたEB110が送り出された。
マクラーレンからは“F1”という名を持つコストを度外視したハイパフォーマンスカーまでが送り出され、スーパースポーツカーの勢力地図がまったく新しいものになった。
そのような群雄割拠の中でテスタロッサ系モデルの進化版という成り立ちを持つF512Mは、性能面で苦戦を強いられた。
やはり、すべてを新設計して登場した最新モデルのほうが、あらゆる面で有利だったのだ。
そのようなスーパースポーツカー事情を背景として、F512Mは1996年に引退した。
この間に生産された台数は、わずか478台だったといわれている。
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