ワインディングで“水を得た魚”となるV12ベルリネッタ。究極の「ドライビング・エモーション」とは?【フェラーリ550マラネロ】Part2

  • 太田哲也
2025.12.28

FERRARI 550 MARANELLO

かつて「日本一のフェラーリ遣い」と呼ばれた太田哲也が、1993年から1997年にかけて試乗した数々の貴重な跳ね馬のインプレッションを、当時の興奮をそのままにお届けします。
今回は、フェラーリのフラッグシップモデル550マラネロインプレッションの後半。太田哲也がワインディングロードで550マラネロを振り回して感じたレポートをお届けします。

ワインディングでは、まさに水を得た魚

この550ほど、サーキットとワインディング・ロードで印象が違うクルマも少ない。フェラーリ本社があるマラネロから東に30分ほど走り、丘陵のワインディングに乗り入れる。こうしたステージでこそ、550は本領を発揮するのだ。

ダンパーを「SPORT」にし、さらにASRはキャンセルする。つまり上級者用のセットだ。短いストレートを3速で加速し4速にシフトアップ。スピードメーターは160km/hを指す。ブラインド・コーナーの入り口で4速から3速、さらに2速にシフトダウン。ざらついた路面にこらえきれずにABSが作動してブレーキペダルが細かく振動するが、確実にスピードは落ちていく。550のABSは今までよりも確実に作動の周期が速く制御も細かいから、パニック時だけでなくコーナリングでも「使える武器」となっている。ポルシェなみと言っていいかもしれない。

80km/hまで減速してステアリングを切る。そのコーナーはきつく回りこんでいるが、550のフロントタイヤはがっちりと路面を捕らえて、グイグイとノーズをイン側に引っ張っていく。つまり、それだけ速い速度で、かつ安心してコーナーに進入することができる、ということだ。

このターンインでの挙動はやはり、前輪に常に一定した荷重がかかるフロントエンジンを採用したのが最も大きな要因だろう。もちろんミッドシップでも、減速しながら荷重移行のタイミングを的確に捕らえてステアリングを切れば速い進入でも前輪グリップは確保される。がしかし、ここはサーキットではない。こうしたブラインドカーブが続くオープンロードで限界速度でコーナーに突入するというリスキーな行為は、たとえプロドライバーであってもそうできるものではない。

コーナー出口でのトラクション不足に関してもこうしたグリップに余裕を残した状況では、それほど感じないで済む。それどころか、逆にFRならではのコントロール性の良さから、それだけ安心して攻めこんでいけるし、パワードリフトを利用してコーナーを駆け抜けることもできる。クルマを自在に操っている感覚はミッドシップよりも強いし、快感度も高い。実用回転域での分厚いトルクを身に付けたエンジンも、こうした舞台での550の速さと楽しさに拍車をかけている。

誰にとっても、楽しくて速い

正直に言って、485hpを一般道で完全に解き放ち、パワースライドを駆使して駆け抜けるドライビングは、誰にでもできる芸当ではないだろう。だからこそのASRであり、このスイッチをONにしておけば、安心してコーナリングを楽しめるのだ。もちろん、オーバースピードでのコーナー進入まで助けてくれるわけではないが、多くの人にとって、ミッドシップのF512Mよりもずっと安心で楽しく速い走りが可能なはずだ。550はもはや、いわゆるスーパーカーやエキゾチックカーという言葉ではくくることはできない。いわば、フェラーリがうたう「ドライビング・エモーション」と、高度な快適性の両立を目指したクルマである。これがフラッグシップのテスタロッサ系の後継モデルとして正しいかどうか、という問題はとりあえず抜きにして、1台のクルマとして見たとき、550マラネロはいろいろな意味で魅力的なスポーツカーだと、ボクは思う。

個人的に、すごく気に入った。

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