【試乗】フェラーリ550マラネロ徹底解説|静的にも動的にも「コンフォート」な485馬力の実力 Part1

  • 太田哲也
2025.12.21

FERRARI 550 MARANELLO

かつて「日本一のフェラーリ遣い」と呼ばれた太田哲也が、1993年から1997年にかけて試乗した数々の貴重な跳ね馬のインプレッションを、当時の興奮をそのままにお届けします。
今回は、フェラーリの新たなフラッグシップモデル、550マラネロを、太田哲也がフィオラノとワインディングロードで現地試乗。レポート前半をお届けします。

静的にも動的にも”コンフォート”

コクピットに乗りこむと、赤いレザーシートの座面と背面に入った細かいステッチや、メッキリングに囲まれたベンチレーターに、正しく’60年代のクラシックな雰囲気を感じた。しかし一方で、あの手長猿のような伝統のドライビングポジションを強いられることがないのが嬉しい。チルト・ステアリングと電動シートで細かく調整すると、自分にぴったりの姿勢におさまった。

意外なほど軽いクラッチを踏みこみ、例のゲートが刻まれたアルミプレートに沿って1速にシフト。あの“ゴクッゴクッ”というシフトの手応えは健在だ。F355あたりよりも剛性感があり、よりダイレクトで、シフト操作の快感度は確実に高まっている。シフト・フィーリングにかなり気を遣って開発したことがうかがい知れる。

フロントに収まる456譲りのV12ユニットは、排気量こそ変わらないものの、圧縮比を高めるとともに、バリアブル・ジオメトリー・インテーク、可変排気圧コントロールなどをはじめとした様々なモディファイが施され、456GTに比べてパワーは実に49hpも向上し、485hpを発揮するに至った。ちなみに先代にあたるF512Mの440hpに対しては45hpアップである。

パワーだけではない。実用域のトルクも重視されており、わずか1500rpmですでに43kg-mのトルクを発生する柔軟性をもつという。具体的にいえば、アイドリング付近の回転数で4速発進もこなせるし、6速-800rpmで40km/hの走進走行も可能なほどなのだ。

エンジンは2000rpmあたりから明確な自己主張をはじめ、そこからレッドゾーンの7600rpmまで一気に吹け上がっていく。それは「シルキー」とか「デッドスムース」などと形容されるようなものではなく、48個のバルブが上下し、12個のピストンが躍動するのが目に浮かんでくるような、もっと有機的でもっと情熱的な、つまりは「フェラーリらしい」としか表現できないフィーリングだ。ペダルを通して右足にゴロゴロと生き物のような息吹を伝えてくる。

室内は基本的には静かである。しかし、回転が上がるにつれてフェラーリV12のハイノートが心地よく高まり、思わずうっとりとしてしまう。それでいて、ガサガサした不快な雑音や振動は見事に抑え込まれて、グッドサウンドと気持ちのいい感触だけが抽出されている。

乗り心地も驚くほど良い。段差などを乗り越えても当たりが柔らかく、ふんわりしているが、それでいてコシはしっかりとしていて、大きくあおられるようなことはない。4本独立でコントロールされる電子制御ダンパーが、適切に「仕事」をしているのだろう。フェラーリがいうところの「コンフォート(=快適さ)」を、静的な意味でも動的な意味でも、見事に達成していることに、ボクは素直に感心した。

本当に512Mより3.2秒も速いのか!?

フェラーリの主張を信じれば、この550マラネロは、フィオラノのテストコースでF512Mを3.2秒も上回るタイムを叩き出したという。良くできたFR車が速さでミッドシップを上回ることも有り得ない話ではない。だが普通に考えれば、それはせいぜい300hp程度であって、後輪荷重が少ないフロント・エンジン車が500hpにも届こうかという大パワーをこなすだけのトラクション性能をミッドシップなみに確保するなど、とうてい不可能としか思えない。

そんな疑問をぬぐい去れないまま、ボクはフィオラノ・テストコースに550マラネロを乗り入れた。最初は、フェラーリ初のトラクションコントロール機構である「ASR」をONにし、ダンパーを「NORMAL」モードにして挑む。

6速が加わったことでギアはF512Mよりもクロスし、高速域の伸びに鋭さを増したエンジンとも相まって、とくに3速、4速の吹け上がりが強烈だ。ターンインもシャープなのは、フロント・トレッドを拡大した効果に加えて、やはりフロントタイヤ荷重が大きいFRレイアウトの恩恵だろう。

だが、問題はこの後だ。クリッピング・ポイントからスロットルを踏みこむと、インパネに「ASR ACTIVITY(=ASR作動中)」の文字が灯り、ホイールスピンを検知したASRが自動的にスロットルを絞り、場合によってはリアホイールにブレーキもかける。フィオラノ・アタックに燃えるボクにとって、ASRの介入は早すぎるうえに、効きも大袈裟に感じられる。「まるでお仕置きシステムだな」などと毒づきたくもなる。

ダンパーを「SPORT」モードにすると、ダンパー減衰力が強化されるだけではなく、ASRによるスロットル&ブレーキ制御も緩和される。つまりドライバーの自由度が増すわけだ。しかし、それでもサーキットでの激しい走りに応えるものではなく、あくまでもスタビリティに重点が置かれる。ノーマルよりは多少のホイールスピンが容認されるものの、もちろんパワードリフトなどは絶対に不可能。スロットルで積極的にクルマの向きを変えるような、クルマのポテンシャルを引き出してタイムを削る走りは、無理な相談だ。

次はASRをOFFにしてアタック。第1コーナーにアプローチし、クリップからこれまでと同じようにスロットルを踏みこむと、外側後輪がぐっと沈んだ瞬間に、今度はリアタイヤがズルッとスライドをはじめる。スロットルを一定にしたままカウンターステアを当て、スライドを完全に止めずにドリフトアングルを維持、さらにスロットルを開けていく。こうした際のドリフト・コントロールはしやすい。もちろん「485hpのわりには」という条件つきだが、少なくともミッドシップのF512Mよりはずっと楽で、スピンにいたるまでのスライドの許容量も大きい。

なにしろ、右足を押しこみさえすれば、アンダーステアだろうがなんだろうが、簡単にオーバーステアに転じてドリフトに持ち込めるから、クルマを振り回すのは朝飯前だ。これがミッドシップだと、アンダーステアが出た状態からスロットルを踏み込んでも、さらにプッシング・アンダーが強まったり、あるいは一気にオーバーステア→スピンモードに突入したりと、つねに繊細な操作が要求される。

一方、トラクションに関してはやはり、とくにコーナーの立ち上がりで、どうしてもFRの限界を感じてしまう。極端な言い方をしてしまうと、ASRの助けを借りなければ、485hpのパワーを持てあましていると言えなくもない。コントロール性はともかく、コーナーの限界速度はF512Mの方が上手だ。3.2秒の秘密は、主として低回転からトルキーで、かつパワフルな心臓にある。

後半に続く