ストリートとは違う顔! フェラーリ 348チャレンジが教えてくれたスポーツカーの愉悦

2025.08.10

FERRARI 348 CHALLENGE

かつて「日本一のフェラーリ遣い」と呼ばれた太田哲也が、1993年から1997年にかけて試乗した数々の貴重な跳ね馬のインプレッションを、当時の興奮をそのままにお届けします。
今回は、ワンメイクレース用の348チャレンジの魅力を解説します。

違って見えたフェラーリ

街で見掛けるフェラーリは、ハッとするほど存在感がある。そして大抵、オーナーがとても大切に扱っていることを物語るかのように磨き込まれていて、近寄り難い高級車然としたオーラをあたりにふりまいている。

しかし、昨年10月にボクがイタリア、ムジェロ・サーキットで出会ったフェラーリ達は、全く違っていた。

ヨーロッパ各地で開催された348チャレンジ・レースの最終戦。シリーズを戦って来た各国の代表54台の348チャレンジが、激しい雨の中でスタートすると同時に水煙を巻き上げながらストレートを駆け抜け、猛然とコーナーでテールを振りだしながら、各車一歩も譲らないバトルを繰り広げる。スピン、コースアウトそしてクラッシュするクルマが続出。汚れ、そして傷つきながらも闘うフェラーリは、今までボクがイメージしていた高級車然としたものではなく、水を得た魚のようにサーキットを舞う、まごうことなきスポーツカーだった。あらためて闘うフェラーリの美しさにボクは見入っていた。

だが、印象的だったのはそれだけではない。348チャレンジを駆るドライバー達はまるで「何か」に取り憑かれているかのようにボクには思えたのだ。

──なぜか? それを確かめたい。その時以来のボクの思いに対する答えが、今回日光サーキットで348チャレンジを限界にまで追い込んで見えてきたのだった。

348チャレンジ

昨年からヨーロッパ各地で始まったこのシリーズは、初年度とは思えないほどの盛り上がりを見せ、今年からアメリカでも始まり、そしてついに日本でもシリーズ戦が開催されることになるようだ。そのために上陸したのが今回試乗した348チャレンジである。

348チャレンジはワンメイク・レース用マシンだが、スペックの上ではスタンダードの348との違いは少ない。

エンジンは、基本的に348に搭載される水冷V型8気筒DOHC4バルブ・タイプF119Gそのままで、300hp/7200rpm、33.0kg-m/4200rpmのカタログ・データを誇る。エクゾースト・システムおよびマネージメント・システムのみフェラーリが供給するスペシャル・パーツによりわずかにチューンが施されている。

レースではサスの形式変更は不可であることはもちろん、コイル・スプリングとダンパーの変更も禁じられ、自由となるのはセッティング変更のみ。車高は約50㎜ローダウンされている。ブレーキはパットの変更は自由で、ABSの回路をカットすることは許されるが、パーツを取り外すことは認められない。

室内はOMPのカーボン製の真っ赤なフルバケットが運転席と助手席に装着され、ルーフまではりめぐらされたフル・ロールケージが、レーシングカーらしい雰囲気を盛り上げるが、内張りなどはそのままで、オリジナルの豪華な雰囲気も兼ね備えている。

これまた真っ赤な6点式のフル・ハーネス・ベルトで体をシートに固定して、スターターを回す。エンジンが快く目覚めた。

フェラーリ独特のグニュッとした感覚のシフトを手前に引いて1速に入れ、走り出す。そのサウンドは獰猛なレーシング・エンジンの咆哮ではなく、スタンダードに近いが、エクゾースト・システムのチューンのおかげで吹け上がりは軽い。素敵なミュージックを奏でながら極めてスムーズにレブリミットの7500rpmまで吹け上がる。このエンジンは高回転で本領を発揮する性格だ。当然だがきっちりトップエンドまで回した方が速い。

ステアリングを通してダイレクトに路面とタイヤとの会話が伝わってくる。ステアリングを切り込むと一瞬の遅れもなくノーズが反応し、コーナーのイン側にスッと向きを変えてくれるのが気持ち良い。

ハイスピードであるが、あくまでもグリップの限界ぎりぎり手前の領域で走る限りは、操作に対してダイレクトで忠実、穏やかな挙動に文句の付けようもない。

が、348はこの先のタイヤグリップの限界を超えた領域に踏み込むと、その印象が激変するのだ。

限界領域では神経質か?

93年イタリアGT選手権でフェラーリ・ワークスの348GTを駆りクラス優勝を獲得したオスカー・ララウリも言っていた。

「348は運転が難しい。リアの挙動が神経質だ」と。もちろん極限領域での話である。

348チャレンジに鞭を入れる。ストレートを4速で通過して、ハード・ブレーキング。ヒール&トウで4速、3速、2速とシフトダウン、ブレーキをリリースし、フロントに荷重が残っている一瞬のタイミングをとらえて、ステアリングを切り込む。

弾けるようにフロントタイヤが反応し、コーナーのアペックスめがけて向きを変える。ここまでは最高に良い。問題はその先だ。

立上がりではアクセルを積極的に開け、パワースライドさせて向きを大きく変える。

この時、スライドさせ過ぎてしまった場合、それを抑えようとしてアクセルを一気に抜くと、スピンモードに陥ってしまう。リア荷重の抜けに対する、リアタイヤのグリップの低下が大きいのだ。

348チャレンジはノーマルの348よりも、この神経質さがだいぶ改善されていた。ロールケージによるボディ剛性の大幅なアップと軽量化、そしてアシを固めて、車高を落としたことにより、ピッチングが減り、挙動変化が抑えられたことが原因だろう。

が、完全になくなったわけではない。ノーマルよりも、限界領域でぐっと乗りやすくなった348チャレンジではあるが、国産スーパースポーツを駆るよりも、依然、極限状態でのコントロールは難しい。

また、躊躇して立上がりで中途半端にアクセルをあおると、かえって挙動が乱れる。ドライビング・ミスに寛容ではない。

ジャーナリスティックに言えば、ステビリティが低いと評価されかねないのだ、ボクはそうも思わない。

348に適した乗り方

今や世界1の348使いと呼ばれるオスカー・ララウリとボクは、同じレースに出場していた。

確か1989年、グループC全盛の頃で彼はポルシェ956、ボクはマツダ787だった。その時の彼は綺麗なラインを取ってとてもスムーズに956を走らせていた。

しかし、だ。ムジェロで彼の駆る348GTの隣に乗る機会があってドライビングを見た時、956の時とは全く違う走り方をしていた。

すなわち、彼の348GTでの走りはコーナー速度重視ではなく、奥まで突っ込んでフル・ブレーキング、向きを変え一気に加速する。極力アクセル・コントロールは行わない。ポルシェ956の時とは正反対。そう、これが348の正しい駆り方なのだ。

この走り方でボクは348チャレンジで日光サーキットを攻めまくった。

ターンインで大きく向きを変えておいてから、コーナー出ロではパワースライドで立ち上がる。テールを振り出してもできるだけアクセル・オフをしないでカウンターで対処する。スライドさせ過ぎてしまいカウンターだけでは足りずに、どうしてもアクセルを戻さざるを得ない時でも、完全にはスロットルをオフにせず、パーシャルに戻す、そう、約5~10㎜くらい戻すのだ。

圧巻はS字を抜けた後、緩く右にカーブしていくコースだ。小さくカウンターを当てながら50m程の緩いカーブを一定のドリフトを維持したまま抜けていく。ドリフトさせてもトラクションがバッチリ掛かり、タイムロスもない。ロで言うのは簡単だが、やってみるとなかなか難しい。滑らせ過ぎてはダメだし、ベストラインを僅かでもはずしてしまっても、タイムロスになる。毎回小さいミスを犯してしまうが、だ・か・ら・こ・そ、ひとたびツボにはまったドライビングができた時、とても大きな満足感を得られるのだ。ドライビング・エクスタシー。

グリップ走行で走った方が速いクルマもある。でも348チャレンジに関しては、グリップ走行でスムーズに走っても速くない。アグレッシブに攻めまくることが大切だ。

だから348を駆るドライバーは知らず知らずのうちに、そうした走りを試みるようになる。

348チャレンジの魔力

348チャレンジレースに出場するドライバーはジェントルなアマチュアレーサーと聞いているが、ムジェロで348チャレンジを駆るドライバーは、ひやりとするほどテールを大きく振り出してもアクセルを緩めようとはしない。レース後、クラッシュしてマシンを潰したドライバー達でさえ、いい汗をかいたと言わんばかりに大笑いしていたのには驚いた。きっと、彼らも348チャレンジの毒に犯されていたのだろう。今回348チャレンジの「走り」の魅力の虜となって、気付いてみると取り憑かれたように夢中で走り回っていたボクはそう確信した。

装飾品としてではなく、乗る楽しみを存分に味わわせてくれるフェラーリ本来の精神を、348チャレンジが再認識させてくれたのだ。