限界性能の先に残った“空白”

新型プレリュードのステアリングを初めて握ったのは、伊豆サイクルセンターのクローズドコースだった。
純粋にクルマの限界性能を見極めるには理想的な舞台だ。ストレートでアクセルを踏み切り、ブレーキングポイントを詰める。
タイヤのグリップは素直で、ブレーキも安定している。ステアリングレスポンスも素直。走りの質は、ホンダらしい完成度だと感じた。
かつて「デートカー」と呼ばれていたプレリュードに、どこか“ユルい”印象を抱いていた。しかし、実際に走らせてみると、その先入観は消えた。
ボディ剛性が高く、サスペンションの動きも正確だ。とくにターンインの初期反応がよく、ステアリングを切ると、クルマが意思を持っているかのように動き出す。スポーツモデルとしての基礎は作り込まれている。
それでも、“空白”が残った。
走りの高さはわかった。けれど、このクルマを街で、峠で、風の中で走らせたとき、僕の心はどう動くのか――それはわからない。速さではなく、感情の話だ。
プレリュードという名は、僕らの青春とともにあった。前奏曲――“これから何かが始まる”という意味を持つ。あの時代、僕らにとってそれは、未来への号令のように響いた。
その名を再び冠した新型が、今、何を訴えかけてくるのか。
若いころは、2ドアのスポーツカーや低い車体のクーペこそがかっこいいと思っていた。あの頃、憧れた「姿」が、今の僕に何を感じさせるのか。その答えを知るため、熊本へ向かった。
感情を探しに行く――熊本・阿蘇の道で

低く構えた赤いプレリュードに乗り込み、ドアを閉めた瞬間、阿蘇の景色が変わった。いや、変わったのは僕の感覚かもしれない。
ステアリングの微動が手のひらに伝わり、車全体が静かに呼吸を始める。熊本空港から国道へ出る。まだ午前の光が柔らかい。
火山灰を含んだ黒い路面をプレリュードは優しく掴み、サスペンションが路面の表情を伝えてくる。
牧草の匂いを含んだ風が全開にした窓から流れ込み、阿蘇の外輪山が遠くに見える。走り出すとすぐに、気づいた。視線が下がると、空が広く見えるのだ。
高い所から見下ろす視界ではなく、路面と同じ目線で走る感覚が新鮮だ。
ステアリングを切る。フロントが素早く反応する。わずかな舵角でもノーズが反応し、リアが遅れずについてくる。その一体感が心地よい。
足まわりはしなやかで、路面のうねりを拾っても、ボディの動きはすぐに収束する。サスペンションは硬すぎず、むしろ柔らかくも感じる。そして張りつく感じ。
メーターの針が上がるたびに、感情の針も揺れる

走るうちに、クルマと僕の境界が曖昧になっていく。次第に呼吸を合わせているような一体感が生まれてくる。
阿蘇の道は舗装がよい。タイヤが軽く鳴く音が、むしろ心地よい。
ふと、昔を思い出した。
若いころ、ショールームのガラスに映った自分とクルマの姿を見て「かっこいいなあ」と思ったあの瞬間。自分の人生にも何かがこれから始まる気がしていた。
そのときの熱が、ふたたび戻ってくる。
阿蘇のワインディングを200kmほど走ったが、重心が低く、姿勢が安定しているからなのだろう、疲れない。車高の高いクルマと違って、「揺れない」「揺れてもすぐに収束する」からだろう。
メーターの針が上がるたびに、感情の針も揺れ、自分とクルマが主人公のような錯覚に陥る。風の中で、僕とプレリュードは同じ鼓動を刻んだ。
電動化の時代でも、“感情の手応え”を重視

新型プレリュードはハイブリッドモデルである
エンジンはバッテリーを充電するために動き、駆動はモーターが担う。けれど、阿蘇の坂を上り下りしていると、モーターの中に確かな“鼓動”を感じる。
ホンダが目指したのは、無音ではなく、“心が動く”加速だ。
その象徴が「Sプラスシフト」だ。モーター駆動でも、パドルでシフト操作ができる。スピーカーから流れるエンジン音に合わせて、シフトダウンすれば回転が上がり、発電量が増える。その分、次の加速が力強くなる。
ただのギミックではない。つまり音の演出が、実際のトルクアップにもつながっている。“気持ちいい”が、ちゃんと“理にかなっている”――ホンダらしい。
ワインディングでこの「Sプラスシフト」を使うと、走りのテンポが取りやすい。コーナーの手前でボーン、ボーンとシフトダウン。音と同時に車体が軽く前のめりになり、次の加速に備える。
踏み込むと、モーターがリニアに反応して車体が前へ弾ける。電動車なのに、アナログ的「つながり感」がある。
プレリュードは“人の感覚”を考えたモデルだ

さらに印象的だったのが「アジャイル・ハンドリングアシスト」に新しく加わった制御だ。
コーナーの進入でアンダーステア――つまり“曲がらない”状態になると、前輪内側にブレーキをかけて旋回を助けてくれるのだ。
これまでは加速中に内輪を制御したが、今回は減速時にも作動することが新しい。ブレーキを遅らせてオーバースピード気味に進入しても、クルマの鼻先が内へ向きを変える。しかもその制御が自然だ。ワイディングの下り坂で、その機能を試す機会はいくつもあった。
勢いよく飛び込んだコーナーで、「あっ、ちょっと速かった」と思った瞬間、鼻先がスッと内に入る。クルマが自分をサポートしようとしている感じだ。身を任せても大丈夫――そう思えてくる。
ひとつ注文を出すとしたら、作動時にインジケーターでも点滅させてくれたらいいのに。どの場面で介入しているか分かると面白い。
開発陣にそう話してみたら、苦笑いをされたが、僕は今でも悪くないアイデアだと思っている。プレリュードは、電動化の時代でも“人の感覚”を考えた。スペックではなく、感情。静けさの中に息づく鼓動。
そうしたものを感じ取りたい人にこそ、ハンドルを握ってほしい。
〇スペック
ホンダ プレリュード
●全長×全幅×全高:4,520mm×1,880mm×1,355mm
●ホイールベース:2,605mm
●車両重量:1,460kg
●エンジン:水冷直列4気筒DOHC
●排気量:1,993cc
●最高出力:104kW(141PS)/6,000rpm
●最大トルク:182N・m/4,500rpm
●駆動用モーター:交流同期電動機
●最高出力:135kW(184PS)/5,000-6,000rpm
●最大トルク:315N・m/0-2000rpm
●駆動用バッテリー:リチウムイオン
●トランスミッション:電気式無段変速
●使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
●タンク容量:40L
●サスペンション:前/マクファーソン
後/マルチリンク
●ブレーキ:前/ベンチレーテッドディスク 後/ディスク
●車両価格:617万9800円(税込)
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