クルマって昔からしっかりしていたんだ

「デートカー」という言葉が存在していた時代。E30型BMW 3シリーズが“六本木のカローラ”と呼ばれていた頃、日本車でそれに真っ向勝負をしたのが3代目ホンダ プレリュードだった。
バブル前夜の六本木では、夜になるとディスコ帰りの女の子をナンパするクルマがぐるぐる回っていた――そんな光景を思い出す人も多いだろう。
今回、モビリティリゾートもてぎ北ショートコースで開催された「ホンダ プレリュード全ラインナップ試乗会」に参加した。
初代から5代目まで、歴代プレリュードを一気に走らせる――そんな贅沢なイベントである。古い個体もあり、正直「これ、ちゃんと動くのかな?」と心配したが、走り出してすぐに驚いた。クルマって、昔からこんなにしっかりしてたんだ。
50年近く前の初代ですら、ハンドルを切れば足まわりが素直に反応し、路面の凹凸を拾いながらも軽やかに走る。その感触に「走る喜びの原点」を思い出した。
初代:素朴だけど、まっすぐ走る楽しさ
1978年に登場した初代プレリュード。顔つきはどこかシビック風で、まだ“デートカー”の面影はない。
しかし、アクセルを踏んだ瞬間から伝わるのは、ドライバーの操作がすべて機械に直結している感覚だ。レスポンスは鈍いが、だからこそ“人が動かしている”という実感がわく。
まっすぐ走ることが、これほど楽しいと思わせてくれる一台だった。
2代目:デートカーの誕生。リクライニングの気遣いにホンダ技術者のヤンチャぶりを感じる
続く2代目プレリュードで、プレリュードは“デートカー”の地位を確立する。
運転席側から助手席を倒せる――いわゆる“愛のレバー”付き。わざわざ身を乗り出さずに、スマートに助手席を倒せるという仕様は、まさに恋愛戦略の一部だったのだろう。ホンダの設計陣は、デートの段取りまでも設計していたのか!? その“モテの機微”まで考えた発想に、思わず感心してしまう。
走りの印象も軽快で、ステアリングフィールも自然。コーナー進入時の姿勢変化も穏やかで、いま乗っても違和感がない。つまりこのクルマ、運転にも誠実だったということだ。
3代目:個人的にはこれ、赤のリトラクタブル! 4WSが効いて曲がる曲がる!
僕が一番好きなのは、やっぱり3代目プレリュード(BA5型・4WS)。リトラクタブルヘッドライトが何しろ格好いい。
今回の試乗でもっとも楽しみにしていたのが、このモデルだった。しかも赤。
当時のキャッチコピーは「世界初の4輪操舵」。実際に走らせてみると、ステアリング操作に対してクルマが驚くほどスッとノーズを入れてくる。
コーナーを抜けるときの“くるり”とした軽やかさが新鮮で、そんなにスピードを出さなくても独特の動きを味わえる。後輪もステアしているという感覚が、なんとも不思議で新鮮だ。
「何の役に立っていたのか分からないけど、なんかすごかった」。
当時のオーナーたちは、きっと助手席の女性に「後輪も曲がるんだよ」と得意げに説明し、「わー、すごい」とか言われて盛り上がったのだろう。
4代目:安定感と大人の余裕
4代目でプレリュードは一気に“現代車”へと進化する。全車3ナンバー化され、よりワイド&ローなプロポーションに。
ボディ剛性も高まり、コーナーでの安定感も向上。足まわりのまとまりも上質だ。
内装デザインも現代的に。恋愛を終えた大人が乗ることをイメージしたのだろうか。恋愛の次のステージを走るプレリュード。
5代目:走りの完成度が頂点に
1996年登場の5代目プレリュードは、ATTS(トルクベクタリング)を搭載。これは前輪の左右駆動力を電子制御で分配する先進機構で、当時としてはかなり意欲的なシステムだった。
今回試乗した個体は比較的新しく、アクセル操作に対する反応が非常にシャープ。ハンドリングも俊敏ながら安定しており、「デートカーから本格スポーツクーペへ」という転向を感じさせられる。
それでいて、乗り味には柔らかさが残っている。硬派すぎず、どこか包み込むような優しさがある。この機構も4輪操舵同様、「何の役に立つのか分からないけど、なんかすごいし、面白い」。
デートカーが教えてくれたもの

あの頃、クルマは“恋を進めるための必須アイテム”だった。それが時代とともに、スマホやアプリにその役割を譲っていった。
Spotifyで音楽を流す今の時代だけれど、カセットテープに録音した「彼女セレクトのベスト盤」を聴いていた時代感は、2代目や3代目プレリュードに乗ると一瞬で蘇る。
助手席を倒すのも、4WSで曲がるのも、結局は“恋する人を乗せて人生を謳歌するためのテクノロジー”だったのかもしれない。クルマが単なる移動手段ではなく、人の感情を動かす存在だった時代。その中心に、プレリュードはいた。
そして――デートカーは、実は真面目だった

「デートカー」という言葉だけ聞くと、軟派で軽い印象を受けるかもしれない。けれど、実際に走らせてみるとどの世代も走りの作り込みが驚くほど真面目だ。ステアフィール、ボディ剛性、足の動き……どれもきちんと作り込まれている。
さらに4WSやATTSなど、常に新しい機構への挑戦を続けていた。ホンダらしい先進技術を惜しみなく盛り込みながら、“恋に効くクルマ”としてのキャラクターをきっちり守り抜いた。
つまりプレリュードとは、情熱と理性、遊び心と真面目さを絶妙に両立していた日本車の象徴だ。果たして新型のプレリュードはどうなのか?
デートカーの時代を懐かしむ人にも、「そんな時代があったのか」と初めて知る若い世代にも、このクルマはどこか優しく響くのではないか。
個人的には、赤の3代目がほしいなあ。
▽その他のホンダ車の記事もご一緒にどうぞ
・ホンダ フリードが「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞! その理由を深掘り
・ホンダ・シビック考
・HONDA e と、ホンダF1撤退に思うこと






























