フェラーリ412T2後半レビュー|V12エンジンと異次元のブレーキング、その本質

  • 太田哲也
2026.01.18

FERRARI 412T2

かつて「日本一のフェラーリ遣い」と呼ばれた太田哲也が、1993年から1997年にかけて試乗した数々の貴重な跳ね馬のインプレッションを、当時の興奮をそのままにお届けします。
今回は、フェラーリのF1マシンで最後にV型12気筒エンジンを搭載したモデル、412T2のインプレッション後半編。富士スピードウェイで太田哲也が試乗したレポートをお届けします。

生き物のような甲高く物悲しい咆哮

エンジンには澱みのようなものが全くなく、回転が高まれば高まるほど弾みがつき、まるでニュートラルでスロットルを踏み込んだように軽く吹け上がる。精密機械が緻密に動いているのが目に見えるようだ。でもやっぱりフェラーリのエンジンで、甲高く物悲しい咆哮は生き物のようでもある。フェラーリのロードカーのV12を何回も濾過し抽出したようなフィーリングで、ボクが今まで体験したクルマの中でも最上級の気持ち良さだ。

速度が上がるにつれ更にダウン・フォースが効いてきて、412T2は這いつくばるように身を屈める。フラットなサーキット路面のほんの僅かなギャップが、ガンガンとフロアを打ち据えるが、ボディ下面には8個のチタン・プレートが埋め込まれているから気にすることはない。次の周にはタイヤの内圧が上がって打たなくなるだろう。

ピットで見守るメカニックの顔がムンクの絵のように後方に溶けていく。フェラーリV12の甲高く物悲しげな泣き声が、耳栓を通してさえ聞こえてくる。この時ばかりは、「生」の音を聞いているコースサイドの人が羨ましく思えた。

二段構えの強烈なブレーキ

第1コーナーの減速はスロットルを戻した瞬間から始まる。強烈なダウン・フォースで地面に張り付きながら、逆噴射したように急激に速度が落ちていく。ブレーキ・ディスクは高温になって本来の性能を発揮するカーボン製だから、発熱量を上げるために最初から強く蹴り込むように踏み込むのが有効だ。右足に力を入れた瞬間、砂地に不時着したような強烈な減速Gに襲われてヘルメットが前方にひきよせられ、ハーネスが胸にきつく食い込む。

シフトに要する時間は640の1/3程度の時間で済む感じだ。フォン、フォン、フォン、フォンと刻まれたエグゾースト・ノートのリズムが何とも耳に心地好い。左手の指先の僅かな動きだけで瞬時にシフトダウンが完了するから、シフトを飛ばすことはできないが6速から2速まで一気に落とせる。そしてヒール&トウは、もはや過去の遺物だ。コンピューターが適正な回転数に合わせてスロットルを自動的にあおるから、もはやドライバーが行う必要はないのである。シフト操作が易しいから、ドライバーはそれだけドライビングに集中できると言うわけだ。

ダウンフォースによるコーナリング

高速コーナリングではダウンフォースが強烈に効いて、まるで路面に粘着しているようだ。走り初めは夢中だったから気付かなかったのだが、リアのダウンフォースが強すぎてアンダーステアが強く、ステアリングの舵角が大きくなって加速が鈍い。きっとマラネロのメカニックがデモラン用ということで、リア・ウイングを目一杯上げてダウンフォースを過剰に付けて送ってきたのだろう。ミッションにしても富士には低すぎるギヤリングで、ストレート始まりで6速に入ってしまい、コントロール・タワーのあたりでリミッターが作動してしまう。まあ、レースに使うわけではないから仕方ないが。ヘアピン・コーナーの立ち上がりでは、ちょうど1万2000rpmを超えるあたりで、急激にパワーがあふれだし、リアがブレイクする。最初はドキッとしたが、ステアリングを小さく戻しただけで一発でテールスライドが収まりホッとした。僅かな操作に対して0.1秒の遅れもなく正確に反応するから、こうした時のコントロールが易し、ある意味では、扱い易いと言えなくもないが、それは決して楽という意味ではない。入力に対して0.1mmのずれも0.01秒の遅れもなく、ダイレクトに反応するということであって、そもそもドライバーがインプットする入力が誤っていれば、その通りに反応するのだ。つまりごまかしは効かないのだ。

おそらくフォーミュラを運転した経験があれば誰でも412T2を転がすことはできるだろうし、ストレートだけを走るならV12を堪能するところまで行けるかもしれない(但し暖まったタイヤを履いた場合の話であり、冷えたタイヤで走りながら暖めるとなると難しい)。

しかし、そこからタイムを詰めていくとなると話は全く別で、高度な技術や体力が必要なのはもちろんだが、それ以上に素早い判断力や物事に動じない精神力、そして知識や経験も求められる。

例えば今回ボクは、1周目に1コーナーのはるか手前でスロットルを戻してしまいブレーキが大きく余ってしまった。2周目、3周目と、ブレーキ・ポイントを詰めていったが、おそらくこのマシンの性能なら100m手前までブレーキを遅らせることができるだろう、と思いながらも、右足がその手前で勝手に戻ってしまった。

1秒間に83mも進む速度(300km/h)で走りながら、コーナーの100m手前までスロットル全開で我慢するなんて、物理的には可能だとしても、すぐにはできるもんじゃない。しかしそれをこなしてしまうのがF1パイロットなのだ。

周回を重ねるうち段々慣れてきて、コーナーもそこそこ攻められるようになってくると、がぜん楽しくなってきた。スロットルを更に踏み込むと、エンジンの高回転域の美味しいところがより以上に現われてきて、エンジンの鼓動とサウンドが実に心地好く五感を刺激してくれる。速さだけを追及したF1と言えども、さすがフェラーリ。悦楽の世界へとドライバーを誘うのだ。

前半はこちら