第3回:デザインの刷新と実用性の継承 ― 2代目フィアット・パンダ(2003–2012)という再出発
2025.04.25
2003年、パンダは23年ぶりのフルモデルチェンジを迎えた。80年代的な無骨さと手作り感の残る初代から一転、現代的で丸みを帯びたフォルムに。2代目パンダの登場は、「パンダはまだ生きているのか?」という懐疑的な声を見事に覆し、“フィアットの復活”を象徴する1台として再び注目を集めることになる。
パンダ復活のキーパーソンたち
90年代後半、フィアットは経営的に厳しい局面にあった。大衆車市場の競争激化によりラインアップが停滞し、「もはやフィアットは過去のブランド」という声も聞こえた。そんな中で登場したのが新型パンダ。開発を主導したのは、当時の若手エンジニアとデザイナーたち。彼らは「先代の精神を受け継ぎながら、21世紀に通用する日常車を作る」というミッションを掲げていた。
スタイルは変われど、本質は変えず
見た目こそ、丸くコンパクトな“愛されフォルム”になったが、根幹の設計思想は初代と同じだった。
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広い室内空間:全長3.5mに満たないボディながら、後席も大人2人がしっかり座れる室内パッケージング。
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扱いやすいサイズ感:イタリアの旧市街地でもストレスなく運転できる小回り性能。
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バリエーションの豊かさ:標準モデルに加え、1.1L、1.2L、1.3Lディーゼルターボ、そして再び4×4も登場。
特にこの時代、ヨーロッパで再燃した「ダウンサイジング」志向にジャストフィットした。
パンダが欧州カー・オブ・ザ・イヤーに!
2004年、2代目パンダはついに「ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。これは初代が果たせなかった快挙だった。評価されたのは、「実用性を高次元で再構築した」点。つまり、“贅沢さ”ではなく“合理性と人間味”をどう最新技術と共存させるかというフィアットの回答に、審査員たちは深く共感したのだ。
また、このモデルから始まった1.3Lディーゼルの「マルチジェット」エンジンは、燃費と耐久性に優れ、多くのヨーロッパユーザーから絶賛された。
4×4モデルも健在。ヨーロッパの山岳地帯で再び脚光
この2代目でも4WDモデルは健在。雪国や山岳地帯では依然として人気が高く、特にスイスでは郵便局の配達用車両としても採用されるなど、「山を走るコンパクトカー」としての地位を固めていく。
一方でこの頃から、パンダのもう一つのキャラクターが生まれ始める。それは“おしゃれで知的な都会の道具”としてのパンダだ。ミラノやトリノでは、女性ユーザーや若いカップルのあいだで「かわいくて便利なイタリア車」として愛用されるようになっていった。
次回予告:第4回では、現代へとつながる3代目パンダの登場と、フィアットというブランドがいかにパンダを軸に再編成されていったかを探っていきます。イタリア車の底力、そしてパンダの“現在地”とは。
【連載まとめ:フィアット・パンダという思想】
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