第4回:フィアット再生の象徴として ― 3代目フィアット・パンダ(2011–)と現代の小型車戦略

2025.04.25

画像引用:FIAT公式サイトより

2011年、フィアットは満を持して「3代目パンダ」を発表した。これは単なるモデルチェンジではない。実に深い意味合いを持った一手だった。

なぜならこの時期、フィアットは自社ブランドのアイデンティティを問い直す過程にあり、グローバル戦略の再構築に向けて「何を残し、何を捨てるか」という選択を迫られていたのだ。

そんな中で、あえて“パンダ”という名を残した意味。そこにフィアットの哲学がある。

生産をポーランドからナポリへ ― イタリア回帰の象徴

2代目パンダは生産拠点がポーランド・ティヒ工場だった。これは品質とコストを両立させる上で最良の選択とされていたが、3代目ではこれを一転、南イタリア・ナポリ近郊の「ポミリアーノ・ダルコ工場」に移管。これはイタリア国内の雇用と技術継承を重視する象徴的な決断だった。

背景には、当時のCEOセルジオ・マルキオンネによる「フィアットのルーツを取り戻す」戦略がある。

丸くなったのに“キリッとした印象” ― 現代的なデザインの工夫

3代目パンダは、丸みを帯びながらもシャープな印象を与える“スクワークル(四角×丸)”デザインを全面に打ち出した。これは外観だけでなく、インテリアパーツ、エアコン吹き出し口、ボタン類に至るまで徹底されており、「遊び心と機能性の調和」が狙いだった。

  • 全長は365cmとやや大型化

  • 室内空間はさらに広く、収納スペースも充実

  • リアシートはスライド式でフレキシブルな使い方が可能

この実用性の高さが、日常のファミリーカーとしての人気に繋がっている。

テクノロジーと“素朴さ”の共存

3代目パンダには、現代のクルマらしく、スタート&ストップ機能やブルートゥース接続、ESC(横滑り防止装置)なども搭載されているが、決して“機械任せ”になっていないところが好印象だ。

例えば、エアコンは物理ダイヤル、メーターパネルも極めてシンプル。これは「クルマは道具である」という初代からの信念が受け継がれている証でもある。

今も変わらず“山の相棒” ― パンダ4×4とクロス

もちろん3代目にも4WDモデルは存在し、「パンダ4×4」およびよりSUV風に仕上げた「パンダ・クロス」がラインアップ。これらは現在でもヨーロッパの山岳地域で絶大な信頼を誇る存在だ。

  • 特にクロスは悪路走破性が大きく向上

  • 地上高は標準パンダより+15mm

  • 電子制御ディファレンシャルロック“ELD”を装備

山道でも市街地でも“ちょうどいい”という絶妙なバランス感覚は、むしろ今の時代にこそ求められている価値だろう。


次回予告:最終回となる第5回では、電動化とカーボンニュートラルの波の中で、次世代のパンダはどこへ向かうのか? フィアットというブランドの未来とともに、“小さな巨人”パンダのこれからを見つめていきます。


【連載まとめ:フィアット・パンダという思想】

  1. 第1回:すべては“合理性”から始まった ― 初代パンダの衝撃

  2. 第2回:国民車から“山の道具”へ ― パンダ4×4の誕生とその衝撃

  3. 第3回:デザインの刷新と実用性の継承 ― 2代目パンダという再出発

  4. 第4回:フィアット再生の象徴として ― 3代目パンダと現代の戦略

  5. 第5回:電動化時代の“シン・パンダ”へ ― 小さな巨人のこれから