アバルト695がくれた原点回帰の楽しさ-今どき珍しい“じゃじゃ馬”との日常を再発見
2025.05.29
免許取り立ての気持ちが蘇る
「こんなに楽しかったっけ?」──普段乗りでの再発見が、免許取り立ての頃の気持ちを呼び覚ました。街中をただ走るだけでワクワクする、そんなクルマに久々に出会った気がする。
TEZZOのデモカーとして長年活躍してきたアバルト595は、ナンバー付きではあるけれど運転するのはいつもレースやタイムアタックイベントのときだけだった。主戦場はあくまでクローズドコース。メカニックがサーキットまで運んでくれていたので、公道で運転する機会がほとんどなかった。
その595が勇退することになり、新たなデモカーとして迎えたのがアバルト695コンペティツィオーネ。生産終了となった595シリーズの最終モデルである。ディーラーのスタッフが届けてくれたので、納車後、一度も乗っていなかった。
初ドライブで目覚めた感覚
そんな695に、先日、はじめて乗ってみた。ハンドルを握った瞬間、僕の中で何かが目覚めた。
「免許を取る前に、早く運転してみたい」と思っていたあの気持ち。「免許を取ったばかりの頃、とにかく運転がしたかった」という原点に近い感覚が呼び起こされたのだ。
左ハンドルにマニュアルトランスミッション、シフトチェンジの回数が多いぶん、自分で操っているという手応えが強い。そしてこのクルマのどっかん系ターボエンジンは、回転が上がる途中で突然盛大に過給が始まる。FFレイアウトゆえ、アクセルを強く踏むとステアリングが取られて乱れ、それをガチャガチャ修正する必要がある。その一連の操作に、神経が集中する。
これはもう、「クルマというより遊び道具だ」。そんな表現がぴったりだ。乗りこなすにはちょっとコツがいるけれど、それがまたクセになる。
反応の鋭さと駆け引き
アバルトのチンクエチェント系は、ワイドトレッドにショートホイールベース、そしてハイパワーという組み合わせで、向きが変えやすい一方で、風やわだちなどの外乱を受けやすく、まっすぐ走るにもハンドル修正が必要になる。
常に路面と対話し、クルマと駆け引きするような感覚があり、ドライバーの操作に対しても瞬時に反応する。その反応の鋭さが「運転している」という実感をもたらしてくれる。
今の時代、運転時にいかにストレスが無いか“が、いいクルマ”の条件になっている節がある。静かでリラックスできることこそが正義。でも、アバルト695はまったく逆。じゃじゃ馬で、落ち着きがなくて、暴れん坊。
だけど、だからこそ、それがいい。ちょっとくらい素行が悪くても、心をつかんで離さないヤツっているでしょう?それだ。
日本の速度域でこそ光る
アウトバーンでの全開走行には向かないだろう。でも速度制限が極めて低い日本の速度域であれば、特に問題はないし不安もない。その分、走行スピードが遅くても刺激的。僕はFRレイアウトのクルマが好みだけれど、アバルト695はFFでも間違いなく楽しい。昔のクルマには独自の価値がある。
はやく運転したい──高校生の頃、そう思っていた。移動したいのではなく、運転そのものをしたい。子どもの頃、遊園地でゴーカートに乗りたかった感覚にも近いかも。695のコンパクトなボディには、人の気持ちを惹きつけ、夢中にさせる要素が詰まっている。
クルマがあるから外に出たくなる
695が車庫にあれば、休日に外に出てリフレッシュしたくなる。なにより、他人に“いいクルマに乗っているだろ?”とアピールする気にならない点も気に入っている。自分のためだけに楽しめるクルマ。若い人たちにも乗ってみてほしい。
これからこの695でアバルト・チャレンジのタイムアタックに出ようと考えているが、それとは別に「普段乗りの楽しさ」も再確認してしまったので、まずは通勤用に使ってみようかと思っている。標準の黒内装はサーキット向きでOKと思っていたけれど、街乗りだったらタンとかもアリかも……そんなふうに、あれこれ考えるのもまた楽しい。もはや“恋人にどんな服を着せようか迷う”ようだ。
▽アバルト595に関するその他の記事もご一緒にどうぞ
・最高速度225km/h! アバルト595コンペティツィオーネの世界で見えたものは? イトウさんのシーズン開幕
・アバルト595/695購入ガイド:赤か黒か色選びで迷ったら?
・さよならアバルト595・・・そして、こんにちはアバルト595!?
・アバルト595をより速くする方向性がみえてきた
・アバルト595は仕様を大幅に変更できるところが魅力
・アバルト乗り必見! 雨の富士スピードウェイで学ぶ安全運転とタイムアップ術