【試乗レポート】新型 日産リーフ B7型、78kWh+チラー冷却で“熱ダレ”克服! 筑波10周の壁を超える

2025.10.17

僕が今までリーフを信頼できなかった理由――筑波で露呈した“バッテリー熱”の壁

新型日産リーフ3代目(開発コードB7)が発表された。EV性能を磨き上げ、バッテリー容量はE+の60kWhから78kWhへ。僕がまず注目したのは、バッテリーの「能力向上」、とりわけ熱との戦いに目を向けたことだった。

いまEVの普及率は1.8%程度。一般的にEVの購入をためらう理由は、①充電インフラ、②航続距離、③充電時間――この3つだろう。けれど僕が長くリーフを信頼できなかった本質は、「負荷をかけたときに持続して走れるか」という一点に尽きる。

僕はEV振興会の依頼で、前期型リーフで筑波サーキットのEVレースに出ていた(過去記事:日産リーフNISMOでEVレースに出てきた!「EVでサーキット」)。10周前後を競うフォーマットだが、前期型は7周目あたりでバッテリー温度が56℃に上がり、セーフモードに入ってガクッとパワーダウン。レース序盤をいわゆる“亀作戦”で走っていた初代リーフ(バッテリーが低温タイプ)に残り3周で抜かれてしまうことがあった。途中から登場したリーフE+(60kWh)でも全開で10周完走は難しく、仕方なく燃費走行を余儀なくされる。――これが僕の不信の正体だった。

もちろん「筑波サーキットを想定するな」という意見は承知している。それでもエンジン車ならガソリンがある限り走り続け、性能が顕著に落ちることはなく、筑波10周を走れないようなモデルはない。ところがリーフはわずか15分程度の全開走行でセーフモードに入ってパワーが落ちてしまう。もちろん一般道でそこまで追い込まないとしても、箱根の急坂を全開で上がる、新東名の120km/h区間で加速を続ける、経年劣化でバッテリー能力が低下、寒い状況で何時間もヒーターで温める――そんな場面で「筑波サーキット10周を走り切れない持続力の弱さ」が頭をよぎる。つまり信用力の問題だ。

テスラなど、EVであってもバッテリーの冷却に取り込んでいるクルマは少なくない。でも多くのユーザーにとって冷却しているかどうかはあまり関心がないかもしれない。日常的に問題となることもないだろうし。

でも、僕の考えとして、人もクルマも平常時ではなく限界領域に置かれた時こそ本質が出る。普段は優しくても、「この人(このクルマ)は困難な時には裏切るかもしれない」と思った瞬間に、信頼は崩れる。予期せぬ事態になっても裏切られない――僕はそういうクルマを求めている。たとえば砂漠を走っていて動かなくなったら命に関わる。だからクルマはパートナーであってほしい。そういう意味で前期型のリーフは、僕にとって信用できるパートナーにはなり得なかった。

3代目で何が変わったか――容量78kWh+チラー冷却+統合熱マネジメント

今回の3代目リーフは、ついに熱管理に本気でメスを入れてきた。まずバッテリーは78kWhへ拡大し余裕を確保。さらにチラー(冷凍機)を用いたバッテリー冷却が新搭載された。モーター冷却系と統合され、外気温や負荷状況に応じてラジエーターの冷却をバッテリー温度管理にも活用できる。外気が低い場面では、このラジエーター由来の冷却がより効く。

実走でも兆しはあった。日産の追浜テストコースで全開走行を数周重ねても、セーフモードには入らなかったのだ。体感としては、かつての壁だった“筑波サーキット10周”が見えてくる。僕は日産の主査/技術陣に「世界中を走ってテストを重ねたというなら、筑波サーキットくらい走ってきてくださいよ」と言ったら、「さっそく走ってきます!」という返事をもらった。結果を知らせてもらう約束をしたが、果たしてどうだろうか。楽しみだ。

日常で効く進化――パッケージ、乗り味、ユーザー体験

旧型リーフから新型リーフになって大きく進化したポイントは以下の項目だ。

■パッケージ

パワートレーンは別体から一体化へ。モーターも小型化した結果、全長はマイナス120mmと短くできて、タイヤも大径19インチが装着可能に。全高は先代同等の1550mmを維持しつつ、最小回転半径が改善して狭い日本の都市部でさらに扱いやすくなった。

■快適性

エアコンシステムをバッテリールームに集約したことで足元空間を拡大。ガラスサンルーフは開放感を与えつつ、赤外線を反射する遮熱ガラスで乗員の頭の温度を下げる効果あり。コンパクト化に伴うモーターの低温化にも取り組んでいる。

■シャシー/乗り心地

日本の道路事情(首都高の継ぎ目などの段差)に合わせて専用チューニング。リアはトーションビーム→マルチリンクへ変更し前後剛性をしなやかにしたことで、19インチという大径を履きながらも路面からの当たりが柔らかい。反対に横剛性はアップしてコーナリング性能が高められた。

■デザイン/空力

Cd値はデザイン面で低減しつつ、SUV的フォルムがもたらす質感の向上も感じられる。ホイールは外気の流入を抑える(抗力低減)設計だが、これはブレーキ冷却と相反する要素だ。実際、追浜のテストコースで怒られない程度に無理やり強い加減速の連続走行をしてみたら、終盤にブレーキパッドがフェードした。サーキットを走るならホイールはより冷却性の高いものへ交換したい。

■エネルギーマネジメント

ナビがルート上の負荷を先読みし、高負荷区間では事前に冷却、低負荷区間では冷却を抑えて電力消費を最小化する制御が入る。日産の開発者による実走テストでも、80km/hで“ちんたら”走らずとも、流れに沿って横浜-広島までの航続距離を伸ばすことができたという報告を聞いた。

■充電体験

僕にとってEVの大きなストレスは、急速充電(約30分)の間の行動制約だ。食事に行って戻ったらすでに充電が終わり、後ろに列ができている――この申し訳なさがつらい。結局クルマのそばで充電終了のタイミングを見張ることになる。これに関して、充電完了をスマホに通知ができるようになったそうだ。また空きステーションもアプリで把握できるので、情報をうまく使えばストレスは軽減可能だ。僕のような行き当たりばったり派には、事前準備の習慣が鍵となる。

“語れるクルマ”への一歩

3代目リーフは、容量78kWh+チラー冷却+統合熱マネジメントで、ようやく熱との戦い=信頼の核心に本気で踏み込んだ。追浜のテストコースでの全開数周でもセーフモードに入らず、体感的には筑波サーキット10周完走の現実味が増した。「何かの時にも信頼できる」――この思想転向は日常の安心を支える。

もちろん、EV特有の充電インフラや時間、コストなど現実的な課題がすべて解けたわけではない。けれど今回のリーフは、“自己の弱点”にメスを入れてきたことが体験できて、信頼感を持つことができた気がする。だから今、ようやくリーフを語る気になれている。

日産リーフ B7 X

●全長×全幅×全高:4,360mm×1,810mm×1,550mm
●ホイールベース:2,690mm
●車両重量:1,880kg
●電動機(モーター):交流同期電動機
●最高出力:160kW(218PS)
●最大トルク:355N・m
●駆動用バッテリー:リチウムイオン電池
●総電力量:78kWh
●サスペンション:前/ストラット 後/マルチリンク
●ブレーキ:前後/ベンチレーテッドディスク

車体価格 ¥5,188,700~

▽日産リーフに関するその他の記事もご一緒にどうぞ
EV Day 2022, 日産リーフのレースカーでタイムアタック!
日産リーフNISMOでEVレースに出てきた!「EVでサーキット」
太田所長が日産リーフのレースに参戦したことで分かった可能性と現状の課題(所員:高桑秀典)
EVスポーツ専用車、リーフ NISMO RCに試乗 by 太田所長(所員:高桑秀典)