【第6回】“触れる・見る・話す”で進化するインターフェース─スバル・クロストレックのHMI設計思想

2025.04.24

画像引用:SUBARU公式サイトより

かつてクルマといえば、ステアリングとメーター、そしてペダルという“物理的な対話”が中心だった。しかし現代のクルマは、ディスプレイや音声、センサーを通じて、より人間に寄り添う“インターフェース”としての機能が求められている。

クロストレックのインテリアに搭載されたHMI(Human Machine Interface)は、単なる操作装置ではない。「ドライバーに情報を伝え、判断を助け、必要ならば警告も与える」──そんな“共生型UI”を目指した設計が施されている。


■ 11.6インチ縦型ディスプレイの狙い

クロストレックのインパネ中央には、縦型11.6インチの大型センターディスプレイが配されている。この「マルチファンクションディスプレイ」は、従来の2DINナビとは一線を画し、インフォテインメント・空調・車両設定などの各種機能を統合して操作できる設計。

縦長画面を採用するメリットは、走行中の視線移動を最小限に抑えられること。特にナビゲーション表示では、進行方向の先まで広く見渡せるため、運転中の安心感に直結する。

また、操作系UIにはスマートフォンに近いスワイプ・タップ操作が採用されており、スクロールや項目選択も直感的。画面のレスポンスも高速で、従来のナビにありがちな“モッサリ感”は一切ない。


■ Apple CarPlay / Android Auto との深い統合

スマートフォンとの接続性にも力が入っており、Apple CarPlay/Android Autoのワイヤレス接続にも対応(グレードにより異なる)。この機能により、スマホの地図・音楽・メッセージ・電話アプリが、クロストレックのディスプレイに統合表示される。

さらに、クロストレックでは車両ステアリングスイッチから直接スマホアプリの操作が可能なインテリジェントな連携が図られており、ドライバーが画面に手を伸ばす必要が最小限に抑えられている点も評価ポイントだ。


■ 音声認識と“対話する車”

クロストレックには、音声コマンドによる操作機能も搭載されている。「エアコンを25度にして」「目的地を自宅に設定して」といった自然言語に近い操作が可能で、ハンズフリーでのドライブを支える。

さらに、ドライバーモニタリングシステム(DMS)と組み合わせることで、個人ごとのシートポジション/エアコン設定/メーター表示テーマを自動復元するなど、“記憶する車”としての側面も強化。まるで「助手席のように寄り添ってくれる」存在感を持つ。


■ DMS(ドライバーモニタリングシステム)の安全機能

クロストレックに搭載されるDMSは、安全面でも重要な役割を担っている。赤外線カメラにより、ドライバーの視線・まばたき・頭部の向きなどをモニタリング。以下のようなアクションが自動で行われる:

  • 居眠りやわき見運転を検知し、音と画面で警告

  • 顔認識により、車両設定を個人別に切り替え

  • 運転者が異常な状態(無反応など)に陥った場合、自動減速→停車→通報(SOSコール)

これらの機能は、スバルが目指す「0次安全」──すなわち、事故が起きる前に防ぐという哲学の一部でもある。


■ アナログ感も残すバランス設計

一方で、すべてを“タッチ操作”に依存するのではなく、クロストレックは一部の空調操作やボリューム調整などに物理スイッチを併用。視認性や操作性を重視した“アナログ感”の残るUI設計も、運転中の安心感を損なわない。

タッチ式UIと物理ボタンを絶妙に共存させた設計は、若年層から年配ドライバーまで、幅広いユーザーの使用感に配慮しているといえるだろう。


■ 次回予告

第7回では、世界市場におけるクロストレックの立ち位置と評価を俯瞰します。アメリカ・カナダ・欧州・アジア圏それぞれでの反応や、ユーザーがどのような“期待”をこのクルマに託しているのかを探ります。


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