【第8回】スバルらしさとは何か─クロストレックが体現する“人とクルマ”の関係

2025.04.24

アイサイトのカメラユニット(写真:SUBARU)

「安心と愉しさ」というスバルのブランドスローガンは、一見するとどのメーカーでも掲げそうな抽象的な言葉に見える。しかし、スバルはこの言葉を、あらゆる技術と設計思想に通底する“哲学”として実装してきた。

最終回では、クロストレックという一台を通じて、スバルが何を大切にし、どんなユーザー体験を作り上げてきたのか。その“スバルらしさ”の本質に迫る。


■ 人間中心設計という思想

スバルの設計には一貫して「人間中心」というキーワードが存在する。これは単に操作しやすいとか、座り心地がいいといったレベルの話ではない。「人のミスを防ぎ、万が一にも備え、そして移動そのものに喜びを与える」という、非常に実践的な人間観に基づいたクルマづくりだ。

クロストレックにおけるその実例が、以下のような部分に現れている:

  • 見やすい・気づきやすいアイサイトによる“視覚の補助”

  • DMSやX-MODEなど、ドライバーの状態や路面の変化に合わせて“補完”する制御

  • 高剛性SGPとAWDの組み合わせによる、“安心の感覚”の裏付け

これらはすべて、ドライバーを完全に機械に委ねるのではなく、「人の能力を尊重し、それを支える」ための工夫なのである。


■ “ちょうどいい”に込められた思想的バランス

クロストレックは、サイズ感もパワー感も、価格帯も“中庸”であることが多い。そのことを「個性がない」と捉える向きもあるかもしれない。

だが、この“ちょうどよさ”こそがスバルらしさの根源だ。都市にも自然にも馴染み、若者にも家族にもフィットし、燃費もそこそこ、走破性も十分。どれか一つに振り切るのではなく、「すべてを70点以上でまとめる」ことに徹した哲学は、過不足ない性能を求める現代人にとって極めて合理的だ。


■ 変わるクルマ社会の中で、変わらない姿勢

クルマがEV化・自動運転化していく中で、スバルは「クルマが人間に寄り添う道具である」ことを変えようとはしていない。むしろ、AIやカメラ、電動化といった新しいテクノロジーを「人間中心設計」の文脈に融合させていくという姿勢を貫いている。

クロストレックにおけるe-BOXERの選択も、フルEV化ではなく“使いやすさ”を優先した設計思想の延長にある。どんな人でも、どんな場所でも、安心して乗れるクルマを作る──それがスバルの揺るぎない軸なのだ。


■ クロストレックは“接続点”である

クロストレックの名前は、「Crossover(交差)+Trek(旅)」から来ている。その名の通り、クロストレックはあらゆる境界をつなぐ「接続点」だ。

  • 都会と自然をつなぐ

  • 日常と非日常をつなぐ

  • 人とクルマをつなぐ

  • 現代と未来をつなぐ

それは単なる移動手段ではなく、“信頼できる相棒”のような存在。クロストレックとは、スバルがこの時代に向けて差し出した、「等身大で信頼できる移動体験」の提案なのである。


■ まとめ:スバルらしさとは、“技術に哲学を持たせる”こと

スバルの車には、どこか理屈っぽさがある。だがその裏には、「なぜこれをやるのか」「本当に役に立つのか」という問いかけを繰り返す技術者たちの思考が息づいている。クロストレックは、その最新形であり、もっとも身近な実践例だ。

スバルらしさとは何か?

それは、機械が人を支えるということを、真剣に考え続けてきたメーカーの姿勢そのものだ。


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第8回:スバルらしさとは何か──クロストレックが体現する“人とクルマ”の関係

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