【第5回】シンメトリカルAWDとX-MODEの真髄─“行ける道”を広げるスバルの武器
2025.04.24

写真引用:SUBARU公式サイト
スバル・クロストレックを語る上で欠かせないのが、スバル独自の「シンメトリカルAWD(All-Wheel Drive)」と、電子制御による悪路走破支援「X-MODE」の存在だ。これらは単なる機能ではなく、“どこへでも行ける”というスバルの設計思想そのものの具現化である。
今回は、クロストレックに搭載されたAWDシステムとX-MODEの制御ロジックを技術的に紐解きながら、その実力と信頼性を明らかにしていく。
■ 完全左右対称構造「シンメトリカルAWD」の哲学
スバルのAWDは、エンジン・トランスミッション・プロペラシャフトが車体の中心軸上に左右対称に配置されているのが特徴。これにより、前後左右の重量バランスが理想的に保たれ、車両の挙動が非常にナチュラルかつ安定する。
クロストレックに搭載されるのは、リニアトロニック(CVT)と連動するアクティブトルクスプリットAWDシステム。通常走行時は前輪駆動を基本としつつ、リアに最大50%までトルクを配分。路面状況やアクセル開度、ステアリング角に応じて、瞬時にトルクを再配分する。
この可変配分制御は、雪道や雨天の高速道路、山道の下りなど、日常に潜む“滑りやすい”シーンでも確実に効力を発揮する。
■ ブレーキLSDとX-MODEの連携で“1輪駆動”も可能に
スバルAWDの真骨頂は、滑った車輪にブレーキをかけ、トルクを他の車輪に逃がす「ブレーキLSD(Limited Slip Differential)」機能との協調だ。
X-MODE作動時には、このブレーキLSDの作動閾値や時間が最適化され、たとえば3輪が滑っても残り1輪で走破するという、実に“マシンライク”な制御が可能になる。これはジムニーやランドクルーザー級のクロカン車に匹敵する走破性能を、クロスオーバーSUVで実現しているという点で特筆に値する。
■ 2モードX-MODEの違いと作動マップ
クロストレックでは、路面状況に応じて選べる2つのX-MODEが用意されている(※一部グレード除く):
-
SNOW / DIRTモード: 雪道や砂利道など、滑りやすいが比較的均一な路面用。スロットルレスポンスと変速比、ブレーキLSDの作動を穏やかに調整。
-
DEEP SNOW / MUDモード: 車輪が埋まるような深雪や泥濘地に対応。タイヤスリップを許容しながら脱出力を優先した制御を行う。
注目すべきは、これらのモードがアクセル開度や車速、車輪のスリップ率からリアルタイムで作動マップを動的に変更する点だ。たとえば、登坂中に片輪が浮いても、X-MODEが瞬時に対応し、車両を前進させる。実際の雪道走行テストでも、前後斜度20%以上の坂道を難なくクリアする実力が確認されている。
■ 下り坂も安心──ヒルディセントコントロール
X-MODE作動時には、「ヒルディセントコントロール(HDC)」も同時に有効となる。これは下り坂でドライバーがアクセルもブレーキも踏まずとも、一定の低速を自動で維持する制御。滑りやすい下りでも姿勢を崩さず、タイヤのグリップを最大限に活かして安全に降坂できる。
この制御は前後輪独立して行われ、左右のタイヤが異なる路面にある場合でも車体が“ねじれる”ことなく、まっすぐ降りてくるのが特徴だ。
■ 「どこへでも行ける」は、単なるキャッチコピーではない
スバルが掲げる「どこへでも、安心して行ける」というフレーズは、シンメトリカルAWDとX-MODEのような高度な技術によって裏打ちされている。クロストレックは、その思想をコンパクトSUVとして最も分かりやすい形で体現したモデルだ。
都市の舗装路でも、山道の砂利道でも、突然の大雪でも。そのすべてを“普通に”走れるというのは、実はとてつもないエンジニアリングの結晶なのである。
■ 次回予告
次回は、クロストレックのインテリアとHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の進化について取り上げます。11.6インチディスプレイや音声操作、そしてドライバーとの“対話”を重視した設計思想に迫ります。
【連載記事一覧】
第1回:XVからクロストレックへ──名称変更に込められたスバルの戦略的意図
名称統一の背景にあるグローバル戦略、デザインコンセプト「BOLDER」の意味とは?
[記事を読む]
第2回:SGPがクロストレックにもたらしたもの──スバル・グローバル・プラットフォームの真価
剛性・静粛性・予防安全まで支えるSGPの構造とその進化に迫る。
[記事を読む]
第3回:アイサイトの進化とクロストレックの安全思想──“クルマが人を守る”をどう実現したか
ステレオカメラとDMSの融合による、人間中心設計の実現。
[記事を読む]
第4回:e-BOXERの正体──水平対向×モーターがもたらすリアルな実用性
なぜ“あえてマイルドハイブリッド”?実用主義の電動化にスバルの哲学を見る。
[記事を読む]
第5回:シンメトリカルAWDとX-MODEの真髄──“行ける道”を広げるスバルの武器
ブレーキLSDとの連携や坂道制御など、AWDの実力を徹底解剖。
[記事を読む]
第6回:“触れる・見る・話す”で進化するインターフェース──クロストレックのHMI設計思想
11.6インチディスプレイと音声認識、ドライバーモニタリングの統合思想。
[記事を読む]
第7回:世界に広がるクロストレック──市場ごとの評価とユーザー像
北米・欧州・アジア各地でのクロストレックの立ち位置と反応。
[記事を読む]
第8回:スバルらしさとは何か──クロストレックが体現する“人とクルマ”の関係
人間中心設計・中庸の哲学・“移動を支える”という姿勢の総まとめ。
[記事を読む]
- 【前の記事】
- 【次の記事】