【第2回】SGPがクロストレックにもたらしたもの─スバル・グローバル・プラットフォームの真価
2025.04.24
クロストレックの走りの質感を語るうえで欠かせないのが、「SGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)」の存在だ。スバルが長年かけて開発し、インプレッサ以降の車種に順次展開してきたこのプラットフォームは、単なる“共通骨格”ではなく、スバルの安全性・走行性能・快適性の要を成す“土台”そのものである。
では、クロストレックに採用されたSGPは、どのような点で進化し、その性能を支えているのだろうか。
■ 剛性アップが生む“しなやかな安心感”
クロストレックでは、先代XVと比べてボディねじり剛性を約10%、サスペンション取付部の剛性を約15%強化。この剛性の向上がもたらすのは、単なる「硬さ」ではなく、「しなやかさ」だ。高剛性のボディは足回りの動きを的確に引き出し、タイヤの接地感を高める。つまり、「地面に吸い付くような走り」の源泉となっている。
この剛性強化には、構造用接着剤の使用範囲拡大も貢献している。従来の溶接+リベット構造に加え、接着剤を活用することで、部材間のエネルギー伝達性を高め、振動の減衰性も向上。NVH(Noise, Vibration, Harshness)対策としても高い効果を発揮している。
■ サブフレーム構造の見直しと操縦安定性
クロストレックのSGPでは、前後サブフレームにおいても構造的改良が施されている。特にフロント側はステアリングラックの取り付け剛性を高め、操舵時の応答遅れを抑制。リア側はダブルウィッシュボーン形式を維持しながら、トレーリングアームの取り付け点剛性を強化。これにより、特に中高速域でのフラット感が増し、コーナリング時の姿勢安定性が際立つ。
加えて、車体の重心を下げる設計思想も、クロストレックのハンドリングの自然さを支えている。重心高はライバルの多くよりも低く、SUVでありながらセダンに近い動的質感を備えているのが特徴だ。
■ 乗員保護だけでない「予防安全の土台」としてのSGP
SGPは、衝突安全性においても注目されている。衝撃エネルギーを効率よく分散・吸収する多重構造のクラッシャブルゾーン、ピラーやロッカーパネルの高張力鋼材比率の最適化など、乗員保護のための構造がふんだんに盛り込まれている。
だが、注目すべきはそれだけではない。ステアリング応答やブレーキング安定性の向上により、「事故を避けられるクルマ」へと進化している点も見逃せない。高剛性でブレのない走りは、ドライバーにとっての情報伝達性を高め、緊急回避動作やブレーキ入力への反応を正確にする。これはすなわち、“予防安全のプラットフォーム”でもあるということだ。
■ 振動制御=快適性という、新たな価値基準
従来のコンパクトSUVでは、乗り心地や静粛性はどうしても“割り切り”が必要な部分とされてきた。だが、クロストレックでは、フロアの振動制御や遮音材配置の工夫によって、上級モデル並みの静粛性を実現している。
例えば、リヤハッチ周辺に高剛性のクロスメンバーを追加することで、共振音の発生を抑制。さらに、ステアリングコラムからの微振動を吸収するインシュレーターも進化しており、長距離移動でも疲れにくい走行環境が整っている。
■ 次回予告
次回は、クロストレックの先進運転支援システム「アイサイト」について掘り下げます。カメラ認識性能や制御アルゴリズムの進化を通じて、スバルが描く“人に寄り添う技術”の現在地を紐解きます。
【連載記事一覧】
第1回:XVからクロストレックへ──名称変更に込められたスバルの戦略的意図
名称統一の背景にあるグローバル戦略、デザインコンセプト「BOLDER」の意味とは?
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第2回:SGPがクロストレックにもたらしたもの──スバル・グローバル・プラットフォームの真価
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第3回:アイサイトの進化とクロストレックの安全思想──“クルマが人を守る”をどう実現したか
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第4回:e-BOXERの正体──水平対向×モーターがもたらすリアルな実用性
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