シルバーのマルニと生きる|BMW 2002ターボを通勤で使うという挑戦

  • 太田哲也
2026.04.30

シルバーのマルニがやってきた

2025年12月26日。
シルバーのBMW 2002ターボが納車された。

1974年式。新車からのワンオーナーで、整備履歴も残っている。当時のBMWインポーター、バルコムの車検証入れもある、今となっては希少な個体だ。

長年ディーラー整備が続けられてきたが、1998年以降は浅草の木村モータースが「雨の日は納車しない」などと丁寧に面倒を見てきた車両。今回の納車整備でも、タイヤ、プラグ、バッテリー、クラッチマスター、前後ブレーキ周り、各種オイル類、シール類まで一通りリフレッシュされ、固着していたフロントブレーキもオーバーホールされている。

こういう履歴の明確さは、旧車において“安心”そのものだ。

これは“引き継ぐ”という話だった

このマルニには僕にとって、思いれのある個体である。

僕がFJ1600でプロを目指していた駆け出しの頃、練習に付き合ってくれていた蔵前・浄念寺の石田さんというお坊さんが、22歳のときに手に入れ、それ以来ずっと大切にしてきたクルマだ。

その石田さんが天寿をまっとうされ、
「この2002ターボを引き継がないか?」
という話が僕のところに来た。

正直、かなり悩んだ。

僕のイメージと違うと思ったからだ。現役の頃からイタリア車に関係があり、個人的にもイタリア車好き。所有車のほとんどがイタリア車。しかも赤比率が高いのは、赤のイタリア車が僕のイメージだと考えているから。そこにシルバーのBMWがくるとなると、それはどうなのか。

と言っても、BMWと縁がなかったわけではない。現役の時はグループAレースでE30 型M3を3シーズンに渡ってドライブしたことがあるし、そのタイミングでプライベートでも320iに乗っていたこともある。

石田さんの遺品というのも縁であるし、どうしようかな。

最終的に受け継ぐことにしたのは、実際に試乗させてもらったときのインパクトとの大きさだった。4000rpmまでは普通のクルマなのだが4000を超えると突然ターボパワーが炸裂、ヒューという音とともにすさまじい加速を始めるのだ。その豹変ぶりに驚くとともに、ひと言「楽しいー」。

BMW 2002ターボは、量産車初のターボモデルである。

最近のターボ車は極低回転からターボが効き、効率的ではあるが、ターボ本来の面白さを失ってしまっている。僕が人生に求めているのは、効率よりもエモーショナルだ。こんな面白いクルマはそうそうない。そう思ったら、僕にフィットしていると思えてきたのだ。

「普通に使う」という挑戦

このマルニにはエアコンがない。

だから、涼しい季節の通勤に使おうと思っている。
保険にも入った。“日常の足”として使うつもりだ。

考えてみれば、旧車を日常で使うというのは初めての試みだ。

でもフラットに、生活の中に入り込んできそうな気がしている。

そのとき、自分の感情がどう動くのか。
それはまだはっきりしないが、だからこそ興味がある。

ストライプを貼るか、貼らないか

ひとつ悩んでいることがある。

このマルニには、あの象徴的な「turbo」の逆文字とストライプが貼られていないのだ。絵に描いた「羊の皮をかぶった狼で」、石田さんが檀家に行くときに乗っていったそうだ。

通勤で普通に使うなら、このままのほうが自然だ。
でも、ストライプがないと「ただの古いクルマ」に見られてしまわないか。今は夜な夜な写真を見比べて、ステッカーを張るか、現状のままか悩んでいる。それもまたクルマ趣味の楽しみのひとつだろう。

主張しない美しさ

マルニのデザインは、いかにも往年のドイツ車らしいボクシーで実直なスタイルだ。

派手さはない。
でも、だからこそ飽きない。

日本でも、あえてアルピナのデコラインを貼らず「普通のBMWですよ」という顔で乗る人がいる。
ゴルフRも驚くほど控えめだ。

主張しないことが美徳になる。

それは、日本とドイツに共通する美意識なのかもしれない。

そして、気づいたこと

気がつけば、僕の旧車は2台ともシルバーになった。

ディーノも、マルニもシルバー。

ディーノはハーネスを新規に引き直すため、よその工場に出かけているが、戻ってきて並べたら、シルバー同士できっとカッコいいだろう。
でもそれ以上に、何か意味があるような気もしている。

理由は分からない。
ただ、選んだというより、そうなった。これも縁かな。

旧車は“過去”ではなく“現在”にある

このマルニは、これから通勤で使うつもりだ。

信号で止まり、スーパーに寄り、また走り出す。
そういう“当たり前の時間”の中で、このクルマがどう感じられるのか。

それを知りたい。

ガレージにしまっておくのじゃなくて、今の時間の中で動かしてみれば、何かが見えてくるのでは。

そう思いながら、僕はキーを回す。

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