【第4回】スバル・e-BOXERの正体-水平対向×モーターがもたらすリアルな実用性
2025.04.24
クロストレックに搭載されるハイブリッドシステム「e-BOXER」は、エンジンと電動モーターを直結して駆動をアシストする、スバル独自のマイルドハイブリッドシステムだ。トヨタ式のフルハイブリッドとは一線を画し、走行性能の自然さと信頼性を両立させた“実用主義”の電動化として注目されている。
今回は、このe-BOXERの構成と制御ロジック、そしてそれがクロストレックのキャラクターにどのようにマッチしているかを深掘りしていこう。
■ ハイブリッドの心臓部:FB20型エンジンとモーターの組み合わせ
e-BOXERのパワートレインは、水平対向4気筒DOHC・2.0L自然吸気エンジン(FB20型)に、13.6PS/65Nmの駆動用モーターを組み合わせた構成。トランスミッションはリニアトロニック(CVT)を採用し、モーターはCVTのトルクコンバーター直前に内蔵されている。
つまり、モーターとエンジンが**直列で結ばれた「パラレル式」**であり、通常走行時はエンジン主体、低速時や発進時にはモーターがアシストを行う。シンプルで軽量な構造は、整備性や信頼性の面でもメリットが大きい。
■ 低速域で光る“静かさ”と“滑らかさ”
e-BOXERの最大の美点は、モーターによる初動アシストによって、発進から30km/h付近までの走行が非常にスムーズである点だ。信号待ちからの発進、交差点での右左折といった、繊細なアクセル操作が求められる場面でも、車体が“ぬるり”と前に出る感覚がある。
特に都市部では、アイドリングストップ後の再始動がモーターによって静かに行われるため、上級セダン並みの滑らかさを体感できる。これは「実用シーンでこそ生きるハイブリッド」という、スバルの開発思想を体現したポイントといえる。
■ “つなぎ目”のない協調制御──燃費だけでは語れない制御設計
e-BOXERの協調制御は、従来のマイルドHVとは異なり、電気的なアシストを単なる「加勢」にとどめず、ドライバーの意図に寄り添うトルク補完として活用している。たとえば、
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上り坂での踏み増し時に、アクセルにリニアに反応する補助トルクを追加
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下り坂では、エンジンブレーキと協調した回生制動を自然な範囲で発生
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滑りやすい路面では、駆動力制御とモーターアシストを連動して安定性を確保
といった形で、**状況に応じた“電気の使い方”**がなされている。つまり、「電気=エコ」だけでなく、「電気=運転品質」でもあるのだ。
■ リチウムイオン電池の搭載位置と低重心化
駆動用バッテリーは、リアシート下の低い位置に搭載されており、ラゲッジスペースを犠牲にせずに車両バランスを最適化している。これにより、e-BOXERモデルでも前後重量配分が大きく崩れず、スバルが誇るシンメトリカルAWDとの相性も良好。路面状況への追従性も非常に高い。
また、低重心化により、コーナリング時のロールも抑制され、SUVでありながらセダンに近いフラットな動きが実現されている点も見逃せない。
■ e-BOXERは“つなぎ”か? それとも最適解か?
BEV(電気自動車)への本格移行が迫る中、e-BOXERは一部で“過渡期の技術”とも揶揄される。しかし、スバルの回答は明快だ──「いま、最も現実的な電動化とは何か?」を突き詰めた結果がe-BOXERなのである。
オフロード性能、雪道での信頼性、整備性、そしてドライバビリティ。すべてをバランスさせたこのシステムは、単なる中間技術ではなく、スバルらしい“最適解”といえるだろう。
■ 次回予告
第5回では、クロストレックの本質的な魅力の一つ、シンメトリカルAWDとX-MODEのメカニズムに迫ります。雪道や悪路で“なぜこんなに頼もしいのか”、その技術的裏付けを解説します。
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