【第3回】アイサイトの進化とスバル・クロストレックの安全思想─“クルマが人を守る”をどう実現したか

2025.04.24

crosstrek

スバル車の代名詞ともいえる「アイサイト(EyeSight)」は、単なる先進運転支援技術の枠を超えた存在として、長年にわたり進化を遂げてきた。クロストレックに搭載された最新版のアイサイトは、第4世代の完成形として、さらなる“人中心”の制御を実現している。

この回では、ハードウェア、ソフトウェア、そして安全思想の3つの軸から、アイサイトの進化を技術的に紐解いていこう。


■ ステレオカメラの広角化と識別性能の向上

クロストレックに搭載されるアイサイトは、左右2つのカメラによる「ステレオ視認」に加えて、視野角が従来比で約2倍に拡大されている。これにより、交差点での左右からの飛び出しや、歩行者・自転車の横断をより早期に検知できるようになった。

また、カメラセンサーの画素数・演算能力も飛躍的に向上し、たとえば夜間の検出精度や低速走行時の歩行者認識能力も大幅に改善されている。特筆すべきは、これがレーダー非併用の“カメラ単独”方式であることだ。これはスバルの「人間の視覚に近い認知を目指す」という思想に基づいており、立体認識による高精度な距離測定をカメラだけで実現している。


■ 高速域の支援を担う「全車速追従クルーズ+車線中央維持」

クロストレックのアイサイトは、**全車速追従型のクルーズコントロール(ACC)**と、**車線中央維持支援(LKAS)**の組み合わせによって、高速道路走行のストレスを大幅に軽減している。

たとえば、渋滞時は先行車に合わせてストップ&ゴーを繰り返し、完全停止後も一定時間内であれば自動再発進が可能。さらに、走行中はセンターを維持するように微細な操舵支援が行われ、ステアリングに対するドライバーの入力負担が大きく低減されている。

ここで注目すべきは、これらが急なカーブや坂道でも自然に作動するよう、マップデータや車両姿勢センサーを用いずに実現しているという点。スバルはあえてマップ依存型の運転支援を避け、ドライバーの主体性を尊重した制御に重きを置いている。


■ 緊急時の介入──プリクラッシュブレーキの制御進化

最新のアイサイトは、**プリクラッシュブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)**の作動タイミングや制動力制御においても、従来以上に“柔らかさ”と“確実性”を兼ね備えている。

前走車や障害物との相対速度、加速度、操舵角、ペダル踏力といった多面的な情報をリアルタイムで解析し、「衝突の可能性」ではなく「回避不能性」を判断基準にブレーキを作動。この“ためらいのない介入”が、高い実効性と安心感につながっている。

また、交差点での右直事故など、複雑な進路交差状況においても、自車の進行方向と相手車両の進路を三次元的に予測するアルゴリズムが搭載されており、都市部での運転でも高い安全性を発揮する。


■ 人間中心設計としての「ドライバー異常時対応システム」

グレードにより設定される「ドライバーモニタリングシステム(DMS)」と連動したドライバー異常時対応システムは、運転中の眠気・無反応状態を検知し、警告→減速→停車→ハザード点灯→緊急通報までのフローを自動で実行する。

これは完全な自動運転ではないが、「もしも」に備える最後の砦であり、スバルが“人に優しいクルマ”を本気で作ろうとしている証でもある。


■ 次回予告

次回は、クロストレックに搭載されたハイブリッドシステム「e-BOXER」について、その仕組みと実用性を徹底解説します。モーターと水平対向エンジンの協調が生み出す走行フィールに迫ります。


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第1回:XVからクロストレックへ──名称変更に込められたスバルの戦略的意図

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第3回:アイサイトの進化とクロストレックの安全思想──“クルマが人を守る”をどう実現したか

ステレオカメラとDMSの融合による、人間中心設計の実現。

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第4回:e-BOXERの正体──水平対向×モーターがもたらすリアルな実用性

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11.6インチディスプレイと音声認識、ドライバーモニタリングの統合思想。

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