フェラーリF40を知り尽くした太田哲也、「公道では危険」と噂されるF40の操縦術を伝授!

2025.11.09

FERRARI F40

かつて「日本一のフェラーリ遣い」と呼ばれた太田哲也が、1993年から1997年にかけて試乗した数々の貴重な跳ね馬のインプレッションを、当時の興奮をそのままにお届けします。
今回は、稀代の名車として誉れ高く、乗り手を選ぶと言われるスペチアーレ、F40の走らせ方を紹介します。

FERRARI F40 STRADALE

2速のタイト・ヘアピンが連続する箱根のワインディング。速度計の指針は真上を指している。

蹴り込むようにガツンとブレーキ・ペダルを踏み込む。F40は路面に磁石で吸い付くように身を屈めて、一気にスピード・ダウンしていく。すさまじい制動力だ。ブレーキにサーボアシストはなく、タイヤのグリップも強烈だからペダル踏力は重いが、効き方が踏み込み量にリニアで、意外にも最大のブレーキング能力を発揮するロック寸前の部分のコントロールがしやすい。また、いざロックしてしまっても、踏力をわずかに抜くだけで、即座にグリップが回復してくれるからコントロールがしやすい。

コーナリングの際も感じることだが、まるで手のひらで路面をじかに触れているかのように、路面とタイヤの接地状況が、ステアリングやブレーキ・ペダルに反力となってダイレクトに伝わってくる。パワー・ステアリングやABSが装着されていないことが、かえってこのクルマの場合は美点となっている。

ヒール&トウを使って3速から2速へシフトダウン。ブレーキの踏力を緩め旋回ブレーキングを残してステアリングを切り込む。ステアリングの反応は、あたかもフォーミュラ・カーのように機敏だ。

エンジンのターボ・ラグは結構大きくて、ブーストが上がらない3800rpm以下に回転を落してしまうとすぐには加速がついてこない。だからクルマの向きを変え脱出態勢が整っていざスロットルを踏み込んでも、もうその時には既に手遅れで、もたもたと脱出速度が遅くなってしまう。

それだけに、F40を上手に走らせるためには、ターボラグを見越して早めにスロットルを開け始めることが必要だ。そのタイミングがピッタリ合えば、クリッピング・ポイントから、あたかもカタパルトで発射されたかの如く猛然と気持ち良くダッシュできる。

さらに早いタイミングで多めにスロットルを踏み込んでやれば、簡単にドリフトの状態に持ち込むことができる。適切なカウンター操作と繊細なスロットル量でコントロールする腕を持ち合わせていれば、次元の高いドリフト走行も可能だが、くれぐれもこの時ラフな操作は禁物である。

話は変わるが、以前グループCカーをモディファイしたロード・ゴーイングカーを試乗したことがある。当然ながら加速もスピードも凄いし、ブレーキも素晴らしかったのだが、コーナリングでは終始アンダーステアに見舞われ、クィックに曲がらず、それほど楽しいものではなかった。これは考えてみれば仕方ないことで、グループCカーは、サーキットを舞台として200km/hを超える中高速コーナーでの安定性を第一に考えて作られたマシンであって、狭く回り込み、ギャップの大きい箱根のワインディングのような所をクイックに走れるように仕立てられていない。レーシング・マシンがサーキットで速いからと言って、公道でも速くて楽しいとは限らないのだ。

一方、F40にとっては箱根のワインディングも得意科目の一つである。他のスポーツカーがひるんでしまうほど、次元の違う速度でコーナリングすることができる。それでいて意外なほど小回りが利き取り回しも良い。F40はサーキットだけでなく、ロード・ユースも重視して開発されていたのである。

しかし取り回しが良いとはいえ、F40を運転する事は簡単ではない。フェラーリ独特のあのゲートが刻まれたシフトや、サーボ・アシストがない重いブレーキ。ミリ単位の丁寧な操作が要求されるスロットル・ワーク。たとえゆっくりであってもスムーズに走らせるにはコツと慣れが必要だし、さらに限界領域に踏み込むとなるとシビアな挙動を示すのも事実で、乗り手には高い技術が要求される。

過去のF40の事故で多く身受けられたケースは、スロットルを踏み込んでもターボラグで反応がないためさらに踏み込んでしまい、そこで突然ブーストが上がって後輪が空転し、リアがブレイクしてスピンに落ち入りコントロール不能となるものである。それを防ぐためには前述したように、加速地点よりも早めにスロットルを踏んでおくことだ。

事故が多いからと言ってF40は危険だと決め付けるのは当たらないだろう。そもそもF40ではなくとも、479bhpのビッグパワーと限りなく限界の高いクルマを扱うためには、乗り手にそれなりの経験と知識が必要とされるのだ。更に本気で走らせるためには、乗り手がハイ・スピード・ドライビングの基本を知らなければならない。その点を踏まえてF40を評価すると、高荷重を与えた時、リアが一気に滑り始める傾向を持っているにせよ、それ以外の部分はよく煮詰められていて、強力なパワーと高い限界性能のわりには扱いやすいと言える。

F40は万人向けのクルマではないし、どちらかというと限られた人に最高のドライビング・プレジャーを与えるための1台である。どちらにせよ史上最強のロード・ゴーイングGTであるのは間違いない。