ロードスターの軌跡【番外編】「異国で生まれた兄弟車──アバルト124スパイダーの光と影」

2025.04.11

2016年、フィアットは久々のオープンスポーツカーとして「124スパイダー」を発表した。そのベースとなったのは、なんとマツダ・ロードスターND型のプラットフォーム。フィアットとマツダの協業により生まれたこのクルマは、“イタリアン・スパイス”を加えた異国の兄弟車として登場した。

● デザインと個性の違い

124スパイダーは、1970年代の初代フィアット124スパイダーをモチーフにしたクラシックなデザインを採用。長いボンネットと直線基調のフェンダーライン、丸目ヘッドライトは、どこか懐かしくもあり、ロードスターとは明確に異なる個性を放っていた。

内装はNDロードスターと共通する部分も多いが、シートや装飾にはフィアット/アバルトらしい意匠が散りばめられ、イタリア車としてのアイデンティティがしっかりと主張されている。

● エンジンはフィアット製1.4Lターボ

最大の違いはパワートレインだ。NDロードスターが自然吸気のスカイアクティブ-Gを搭載するのに対し、124スパイダーはフィアット製1.4L直4ターボエンジン(マルチエア)を採用。最大トルクは250Nmと、NDを上回る力強さを誇る。

しかし、その特性は「軽快でリニア」なNDとは対照的で、ターボラグやエンジン音の違いに戸惑うファンもいた。いわば「別の味付けがされた同じ素材の料理」と言える存在であった。

● アバルトとしての存在意義

124スパイダーには、アバルトブランドによるチューンドバージョンも存在し、ブレンボ製ブレーキやビルシュタインダンパー、レコードモンツァのスポーツマフラーなどが装備された。よりアグレッシブな走りとエモーショナルな排気音は、ロードスターとは異なる“熱”を感じさせた。

一方で、販売面では苦戦を強いられた。価格帯がNDより高く、ブランドの知名度やディーラー網の違いも影響し、2020年には生産終了。わずか数年で市場から姿を消した。

● もうひとつの選択肢として

124スパイダーは、「ロードスターの兄弟車」であると同時に、「スポーツカーが持つ多様性」の象徴でもある。マツダの“人馬一体”とは異なるアプローチで、「走る楽しさ」を再構築しようとしたこのモデルは、今振り返れば非常にユニークな存在だった。

異国で生まれ、異なる哲学で磨かれた124スパイダー──その短い生涯は、スポーツカーというジャンルの奥深さを教えてくれる。


ロードスターの軌跡 連載一覧

【第1回】「“人馬一体”の原点:初代ロードスター(NA型)誕生秘話」
【第2回】「進化と継承:ロードスターNBとNAの影」
【第3回】「第三の挑戦:ロードスターNC、重量化と格闘するロードスター」
【第4回】「原点回帰と未来志向:ロードスターNDの革新」
【第5回】「これからのロードスター:ND後期、そしてNE型へ?」
【番外編】「異国で生まれた兄弟車──アバルト124スパイダーの光と影」