フィアット500の軌跡と現在【連載第4回】2007年、500復活――「可愛さは世界共通語」の証明

2025.04.14

2007年7月4日――まさにオリジナルのNuova 500が誕生してからちょうど50年後、トリノで再び“伝説”が動き出す。

新しいフィアット500(以下「新型500」)は、ただの復刻モデルではなかった。それはイタリア車として、いやヨーロッパ車としても稀に見る「グローバルなアイコン」への進化の始まりだった。


■ デザイン:過去へのオマージュと現代的洗練の融合

新型500のスタイリングを手がけたのは、ロベルト・ジョルジェッティ率いるフィアット・スタイルセンター。

彼らが目指したのは、Nuova 500のスピリットを現代的に再解釈することだった。

  • 丸みを帯びたボディと独特のライトデザイン

  • メッキのアクセントや短い前後のオーバーハング

  • 「見てすぐ500とわかる」キャラクターライン

これらはすべて、“500らしさ”を保ちながら、現代の安全基準・快適性にも配慮されたバランスの産物だった。

室内もまた、レトロ感と現代的装備の融合。ダッシュボードのボディ同色パネル、円形メーター、そして多彩なインテリアカラーは、日常に“遊び心”を持ち込みたいユーザーにぴったりだった。


■ メカニズムと走り:パンダ譲りの堅実さ

新型500は、2代目パンダと同じ**“Fiat Mini”プラットフォーム**をベースにしており、前輪駆動方式を採用。

搭載されたエンジンは1.2Lおよび1.4Lのガソリンユニット(後にTwinAirや1.3ディーゼルも追加)、5速MTまたはセミオートマ「デュアロジック」。

決してスポーティではないが、“軽快”かつ“キビキビ”した都市型ハンドリングで評価は高かった。

特筆すべきは、欧州の衝突安全基準(ユーロNCAP)にも適合し、クラシックな見た目からは想像できないほどの高い安全性を実現していた点である。


■ 「ファッションとしての500」 ― ブランド力の再構築

フィアットは、新型500を単なる“車”として売らなかった。

ライフスタイル提案型モデルとして、アパレル、アート、音楽と連携したプロモーションを次々と展開。

  • ディーゼル、グッチ、バルマンとのコラボモデル

  • 数え切れないほどのボディカラーと内装パターン

  • イタリア国内だけでなく、ロンドン、パリ、東京でも“街のアイコン”に

このアプローチは、新型500を**「可愛いけれど機能的」「小さいけれど個性的」な選択肢**として、世界中の都市生活者に支持される理由となった。


■ アバルトの復活 ― 走り好きへの熱い返答

2008年、走りを求めるファンの声に応える形で500アバルトが登場。

  • 1.4Lターボエンジン

  • 専用サスペンション・ブレーキ

  • ダクト付きのアグレッシブな外装デザイン

フィアット500という「カワイイ」を「カッコイイ」に転換させたアバルトは、ミニクーパーSと並び称される存在へと成長。さらに限定モデルやラリー仕様まで展開され、ホットハッチとしてのポジションを確立していく。


■ 世界市場での大成功と課題

新型500はその後、120か国以上で販売される世界戦略車となり、特にヨーロッパ、日本、そして北米市場でヒットを記録。

しかしその一方で、以下のような課題も見えてきた:

  • 都市型車ゆえの“狭さ”によるユーティリティ性の限界

  • EVシフトへの対応の遅れ

  • 長年プラットフォームを更新しなかったことによる競争力低下

だがそれでも、「500」というブランドが持つ価値は揺るがなかった。


■ まとめ:21世紀に蘇った“愛される”アイコン

新型フィアット500は、クルマの価値を「移動手段」から「自己表現」へと転換させた、非常に象徴的な存在だった。

それは単なるリバイバルではなく、文化的アイコンとしての再生でもあったのだ。

次回はいよいよ、EV時代の500――新型「500e」が描く未来について、掘り下げていく。

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