フィアット500の軌跡と現在【連載第5回】EV時代のチンクエチェント――「500e」が切り開く未来
2025.04.14
内燃エンジンの500が一時代を築き上げたのに続き、フィアットは新たな挑戦に踏み出す。それが**EV(電気自動車)専用モデルとして生まれた「500e」**だ。都市型モビリティが再定義されるこの時代において、“かわいいだけでは終わらせない”500の新たな進化が始まっている。
■ 2020年、「新生500e」誕生
2020年、新型コロナウイルスによる混乱のさなか、フィアットは新型500eを発表。
プレス向けイベントは縮小されたものの、そのデビューはヨーロッパ中の注目を集めた。
このモデルは、従来のガソリン500とは完全に異なる新設計。プラットフォームからしてEV専用であり、パッケージング、設計思想、走行性能のすべてが「ゼロからの再構築」だった。
■ デザイン:レトロと未来の共存
外観は一見すると「いつもの500」。しかし、細部を見ると確かに次世代だ。
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LEDリングが印象的なヘッドライト
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ドアハンドルはタッチ式に変更
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500のロゴが新たに“ブランド名”としてフロントに鎮座
インテリアもまた進化しており、10.25インチのタッチスクリーンを中心としたコネクテッド機能満載の空間に。ダッシュボードにはリサイクル素材も採用され、サステナブルな時代への意識が感じられる。
■ メカニズムと性能:都市を走るために生まれたEV
500eは、都市型モビリティとしての設計を極限まで突き詰めている。
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航続距離:最大320km(WLTP)
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バッテリー容量:42kWh
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最高出力:118ps、0-100km/h加速は約9秒
急速充電にも対応し、35分で約80%まで充電可能。つまり、街乗り+週末の小旅行なら十分対応可能なスペックだ。
走行フィールは極めて静かでスムーズ。しかも、エンジン音がない分、「500らしい可愛さ」がより際立つ。ステアリングの軽さ、サイズ感、そして細かな取り回しのしやすさ――まさに“EV時代の理想的なシティカー”と呼ぶにふさわしい。
■ フィアットの未来戦略:500シリーズの中核へ
2023年には、フィアットCEOが「今後欧州ではフィアットのすべての新車をEVにする」と発表。
その象徴となるのが500eであり、今後は派生モデルの拡充も視野に入っている。
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500e カブリオレ:電動ソフトトップで解放感をプラス
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500e 3+1:右後方に小さな観音ドアを持つ利便性モデル
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特別仕様車:ラ・プリマ、レッドエディションなども続々投入
さらに、フィアットはステランティス傘下に入ったことでEV技術やインフラ面の強化が加速。より手ごろな価格帯や共有プラットフォームによる拡販も期待されている。
■ まとめ:変わらない“魂”、変わり続ける“形”
フィアット500は、1957年の誕生から60年以上を経て、ガソリン→再生→EVへと進化してきた。
だが、その根底にある「小さくて、かわいくて、生活に寄り添う」という哲学は一貫している。
EV化によって消えゆくモデルが多い中、500はむしろ**“新たな命を得た存在”**として今も輝きを増している。
締めくくりに:500が教えてくれること
自動車の世界が大きく変わる今、500という存在は、単なる乗り物以上の意味を持つ。
それは「生活にフィットすること」「気分を上げてくれること」「自分らしさを映すもの」であり、
どんな時代にも“ちょうどいいパートナー”であり続けてくれる車なのだ。
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