軽量×リアルスポーツの哲学 ― アルピーヌA110開発思想の核心|A110連載第2回

2025.05.09

〜「軽いことは正義だ」と言い切る、フランス流エンジニアリング〜


【導入】

パワーや排気量、タイムや馬力にばかり目が向きがちな現代スポーツカー市場。だが、アルピーヌA110はそれらと距離を置き、「軽さ」と「しなやかさ」にこだわった異色の存在である。

本稿では、新型A110に込められた開発思想と、それを具現化したエンジニアリングのディテールに迫る。


【1】設計思想の根幹にある“ライトウェイト・イズ・ジャスト”

新型A110開発チームの哲学は一貫していた。

ドライバーの感性に寄り添う、“人馬一体”のクルマを作る」こと。そしてその鍵が“軽さ”だった。

  • 目標車重:1100kg以下(最軽量モデルで実現)

  • ドライビングプレジャーは“絶対速度”より“相対応答性”

  • 軽いボディが生むタイヤ・サス・ブレーキの最適化効果

この哲学は、創業者ジャン・レデレの思想にも通じている。「速くなくても、気持ちよく走るクルマが最高だ」と語っていたという。


【2】専用設計による“フルアルミ構造”の軽量モノコック

A110の最大の特徴は、シャシーから外板の大部分までアルミニウムを用いたフルアルミ構造にある。

プラットフォームはこの車のためだけに設計された専用品であり、溶接、接着、リベットを組み合わせた高度な組立技術が用いられている。

  • シャシー&ボディ:高剛性・軽量なアルミニウム構造

  • 車重:約1100kg、前後重量配分44:56を実現

  • アルミ使用率は90%以上、一部に高剛性樹脂部品も採用

これにより、軽さ・剛性・安全性を高次元でバランスさせ、他のライバルがなし得なかった“日常使いできる本格ライトウェイトスポーツ”が実現した。


【3】ミッドシップに置かれた1.8Lターボエンジン

パワーユニットは、ルノー・メガーヌRSと同系の1.8L直列4気筒ターボ(M5Pt)

だが、A110専用にチューニングされており、**最高出力252ps/最大トルク320Nm(Sでは300ps)**を発揮。トランスミッションは7速DCT。

  • 最大トルクは2000rpmから立ち上がる扱いやすさ

  • 0-100km/h加速:わずか4.5秒(カタログ値)

  • 軽量ゆえに、必要以上のパワーは“足かせ”になると判断

トンネルを駆け抜けるようなエンジンサウンドと、低い着座位置からの視界が、官能的なドライビングを演出する。


【4】しなやかで楽しい、ダブルウィッシュボーンの恩恵

前後サスペンションはダブルウィッシュボーン式

これもこのクラスでは異例の贅沢な構成だ。スプリングレートやダンパー減衰は“硬すぎず、柔らかすぎず”を追求。

  • 一般道での乗り心地の良さと、峠でのリニアな応答性

  • 過度に電子制御に頼らない“人間主体”の走り

  • ステアフィールの自然さは、ポルシェすら脅かすレベル

「タイヤの設置感」「荷重移動の気持ち良さ」といったアナログ的感性に重きを置いた設計が、玄人筋からも評価されている。


【結び:次回予告】

アルピーヌA110は、ただの数値競争を避け、ドライバーの本能に訴える軽量スポーツを実現した。

次回は、実際にこのクルマに試乗したジャーナリストたちのリアルな声を集め、どのような“感触”が支持を集めているのかを解説していく。


「アルピーヌA110再生の軌跡 ― 伝説を現代に蘇らせたスポーツカーのすべて」

【連載目次】

第1回:「復活した伝説 ― 新生アルピーヌA110が誕生するまでの背景」

第2回:「軽量×リアルスポーツの哲学 ― アルピーヌA110開発思想の核心」

第3回:「モータージャーナリストが唸った! アルピーヌA110の走りと乗り味」

第4回:「進化し続けるA110 ― S、GT、R、そしてサーキット仕様R-GTまで」

第5回:「アルピーヌの未来 ― EVシフト時代におけるA110のポジションと後継構想」

番外編1:オーナーレビュー|アルピーヌA110の実体験に基づく評価

番外編2:アルピーヌA110を買う前に知っておきたい5つの注意点