復活した伝説 ― 新生アルピーヌA110が誕生するまでの背景|A110連載第1回
2025.05.09
〜軽量ミッドシップスポーツは、なぜフランスから生まれたのか〜
【導入】
2017年、ひときわ異彩を放つスポーツカーがヨーロッパ市場に登場した。その名はアルピーヌA110。かつてラリー界を席巻した伝説のモデルが、現代技術によって蘇った瞬間だ。
本記事では、このA110誕生の舞台裏に迫る。モータースポーツの栄光、ブランドの休眠、そして復活――アルピーヌという名に込められたフランス流スポーツカーの精神を紐解いていこう。
【1】1960〜70年代:アルピーヌA110、栄光の始まり
初代アルピーヌA110は1962年に登場。軽量FRPボディにルノー製エンジンを搭載し、タイトなワインディングやラリーステージで無類の強さを誇った。
1973年、WRC(世界ラリー選手権)開幕初年度で初代チャンピオンを獲得。その名声は欧州全土に広まり、アルピーヌはルノー傘下のスポーツ部門として位置づけられることになる。
-
代表的モデル: A110 1300S, 1600SC
-
象徴的レース: モンテカルロ・ラリー、ツール・ド・コルス
-
キーワード: 軽量×リア駆動、ミッドエンジンではなくリアエンジン
【2】ブランド消滅と長い沈黙
1980年代以降、F1やGTカー分野に注力していたルノーの影響もあり、アルピーヌは徐々に表舞台から姿を消していく。最終モデルのA610(1995年)を最後に、ブランドとしては一時消滅した。
しかし、その名はモータースポーツファンやコアな自動車愛好家の中で生き続けていた。
【3】ルノーの決断 ― 伝説の再起動
2000年代後半、世界的なスポーツカー再評価の流れとともに、ルノーはアルピーヌブランドの復活を模索。
2012年にはイギリスのケータハムと共同開発プロジェクトをスタートするも、2年後に決裂。
それでもルノーは開発を継続し、“ルノー・スポール”のノウハウを活かして完全自社開発へと舵を切った。
-
試作車名: アルピーヌ セレブレーション(2015年発表)
-
開発拠点: ルノー・スポール(ディエップ工場)
【4】2017年、A110再び ― コンセプトは“軽さの美学”
ついに2017年、ジュネーブ・モーターショーで正式デビューした新型A110。
かつての名を受け継ぎながら、全く新しい軽量ミッドシップスポーツとして誕生した。
-
車重: 約1100kg(軽量アルミ構造)
-
エンジン: 1.8L直列4気筒ターボ(252ps)
-
駆動方式: MR(ミッドシップ・リア駆動)
初代A110が築いた「軽さと俊敏さ」の哲学を現代に受け継ぎつつ、現代的な快適性と品質も両立。ライバルが巨大化する中で、A110は“異端の真価”を放っていた。
【結び:次回予告】
新生A110は、ただのリバイバルではなかった。
次回は、このクルマに込められた“開発思想”を深掘りしていく。「軽いことは正義だ」という信念のもと、どのような設計思想でこのマシンが生まれたのか――。
「アルピーヌA110再生の軌跡 ― 伝説を現代に蘇らせたスポーツカーのすべて」
【連載目次】
第1回:「復活した伝説 ― 新生アルピーヌA110が誕生するまでの背景」
第2回:「軽量×リアルスポーツの哲学 ― アルピーヌA110開発思想の核心」
第3回:「モータージャーナリストが唸った! アルピーヌA110の走りと乗り味」
第4回:「進化し続けるA110 ― S、GT、R、そしてサーキット仕様R-GTまで」
第5回:「アルピーヌの未来 ― EVシフト時代におけるA110のポジションと後継構想」
番外編1:オーナーレビュー|アルピーヌA110の実体験に基づく評価
番外編2:アルピーヌA110を買う前に知っておきたい5つの注意点
- 【前の記事】
- 【次の記事】