フェラーリF40の設計思想と開発体制 ― 軽量化・ターボ・空力の三位一体 |連載企画「フェラーリF40のすべて(第2回)」

2025.07.24

開発責任者ニコラ・マテラッツィの哲学

フェラーリF40の開発を統括したのは、当時社内で最も実戦的な知見を持っていたエンジニア、ニコラ・マテラッツィである。彼は288GTOの設計者でもあり、エンツォ・フェラーリの信頼を得てプロジェクトを主導することになった。

マテラッツィの基本思想は「真に速いクルマとは、軽く、空力に優れ、必要最低限の機構で構成されるもの」という、極めてシンプルで合理的なものだった。

そのため、F40にはパワーステアリングやABS、エアバッグ、遮音材すら一切搭載されていない。電子制御の介入を避けることで、ドライバーとマシンの間に生まれる“生の接点”を最大化したのだ。

⚙️軽量化と構造設計 ― カーボンとケブラーの融合

F40の最大の特徴の一つは、当時としては極めて先進的だったCFRP(炭素繊維強化プラスチック)構造の採用である。

モノコックフレームはチューブラースチールをベースにカーボンファイバーとケブラーのサンドイッチ構造を組み合わせる方式を採り、これにより剛性と軽量性を高次元で両立した。乾燥重量は約1100kgと、現代のハイパーカーと比較しても極端に軽い。

この素材の採用にあたっては、F1からのフィードバックが多分に盛り込まれており、ピニンファリーナとフェラーリ・エンジニアリング部門の共同設計体制が敷かれた。

空力性能とエクステリアデザインの両立

ピニンファリーナのチーフデザイナー、レオナルド・フィオラバンティが担当したボディデザインは、視覚的なインパクトと機能性の両立を目指したものだ。

風洞実験を繰り返し、ダウンフォースを優先した結果生まれたリアウイング、NACAダクト、ノーズの開口部など、すべてが空力効率と冷却性能に直結している。

Cd値(空気抵抗係数)は0.34とされるが、これは単なる抵抗低減ではなく、「安定した高速走行」に主眼を置いた設計であり、空力的ダウンフォースによって時速300km/hでも路面に張り付く挙動が得られる。

ターボ時代の設計思想

この時期のフェラーリは、F1でもターボ時代の只中にあった。F40は、そのF1で培われた技術を市販車として最大限活用するプロジェクトであり、エンジンの開発にも“レーシングマインド”が貫かれていた

後の回で詳述するが、F40のエンジンは単なる高出力化ではなく、ターボ特有のラグやピーキーさをあえて残した「スパルタンな」設計が特徴で、これも設計思想に沿った判断であった。

まとめ:理性よりも情熱で作られた車

F40は、理性でコントロールされた“完璧な機械”ではない。むしろ、ドライバーの情熱や技巧に応える“野性の塊”のような存在である。その設計思想は徹頭徹尾“走るための道具”として構築されており、現代のスーパーカーとは一線を画する。

 

連載構成:「フェラーリF40のすべて」シリーズ(全6回)

第1回:F40誕生の背景 ― エンツォの遺言と288GTO Evoluzione
第2回:設計思想と開発体制 ― 軽量化・ターボ・空力の三位一体
第3回:F40のパワートレインとシャシー ― 極限の走行性能
第4回:F40のデザインと素材革命 ― カーボンとアグレッシブの融合
第5回:公道最速の称号とモータースポーツへの挑戦
第6回:現在の市場価値とF40の遺伝子 ― ハイパーカー時代への影響