フェラーリ F40現在の市場価値とF40の遺伝子 ― ハイパーカー時代への影響 |連載企画「フェラーリF40のすべて(第6回)」

2025.07.24

クラシックカー市場におけるF40の現在位置

フェラーリF40は2020年代に入り、クラシックカー市場において「ブルーチップ(優良資産)」と見なされる存在となった。特に状態の良い“初期型”や、マラネロ工場によるフルレストア済みの個体は、300万〜400万ドル(日本円で約4億円〜6億円)の価格でオークション落札されている。

2022年には、米RMサザビーズで4,000km未満走行の欧州仕様車が4.3億円相当で落札。さらに、レーシングバージョンであるF40 LMは7億円以上で取引された例もある。

この価格の高騰には以下のような要因がある:

  • エンツォ・フェラーリの最後の監修モデル
  • 純粋なアナログ性能とドライビングフィール
  • 電子制御なしの“最後のフェラーリ”
  • 製造台数わずか1,311台(うち国内向けは約60台)

F40は単なる高性能車ではなく、「歴史上の転換点に立つ機械」として認識されている。

後継モデルへの遺伝子継承

F40は後継車たちに明確な影響を与えている。以下は、F40とその後の“フェラーリ・ハイパーカー系譜”の比較である:

モデル

発表年

特徴

F40との共通点

F50

1995年

NA V12+カーボンモノコック

F1直系エンジン、軽量志向

Enzo

2002年

カーボン製F1マチック+V12

限定車、F1技術の転用

LaFerrari

2013年

ハイブリッドV12(KERS)

“究極”を目指したコンセプト

SF90 Stradale

2019年

PHEV+AWD+電子制御

パワー重視、F1の直系テクノロジー

F40以降、フェラーリのフラッグシップは明確にハイテク&高価格化していったが、「極限まで軽く、運転が難しい」というF40の哲学は今もコア・ファンに受け継がれている。

F40が残した哲学:スピードとピュリティ

現代のハイパーカーは、1000psを超える出力、数十の電子制御、カーボンモノコック、アクティブサスペンション、AIサポートなどを搭載している。だがその中で、F40はまったく異なる方向性――「ピュア・ドライビング」を今もなお象徴する。

  • ドライバーがミスをすればスピンする
  • アクセルとブレーキの全てが“自己責任”
  • 快適装備は皆無
  • それでも「走る」ことに全てを捧げている

F40は、機械に乗っているというよりも、「機械と戦っている」感覚を与える唯一無二の存在だ。

“エンツォの遺言”としてのF40

フェラーリ創業者エンツォ・フェラーリはF40の開発中、自らこう語ったとされている:

「これは純粋なドライバーのためのフェラーリだ。マーケティングのためではない。魂のためだ。」

エンツォの死はF40発表の翌年、1988年。彼はこのクルマが「自動車とは何か」の本質を後世に問いかける“遺言”となることを知っていたのかもしれない。

F40は終わりではなく、原点として、今なお多くのドライバーやジャーナリストに語り継がれている。

連載を終えて:F40とは何だったのか?

フェラーリF40は、単なる「速い車」ではない。
それは“本能”と“技術”が交差する場所に存在する、ピュアな走りの彫刻である。
そして、それが今なお神話として語られ続けている理由でもある。

連載構成:「フェラーリF40のすべて」シリーズ(全6回)

第1回:F40誕生の背景 ― エンツォの遺言と288GTO Evoluzione
第2回:設計思想と開発体制 ― 軽量化・ターボ・空力の三位一体
第3回:F40のパワートレインとシャシー ― 極限の走行性能
第4回:F40のデザインと素材革命 ― カーボンとアグレッシブの融合
第5回:公道最速の称号とモータースポーツへの挑戦
第6回:現在の市場価値とF40の遺伝子 ― ハイパーカー時代への影響