クラシックカー市場におけるF40の現在位置
フェラーリF40は2020年代に入り、クラシックカー市場において「ブルーチップ(優良資産)」と見なされる存在となった。特に状態の良い“初期型”や、マラネロ工場によるフルレストア済みの個体は、300万〜400万ドル(日本円で約4億円〜6億円)の価格でオークション落札されている。
2022年には、米RMサザビーズで4,000km未満走行の欧州仕様車が4.3億円相当で落札。さらに、レーシングバージョンであるF40 LMは7億円以上で取引された例もある。
この価格の高騰には以下のような要因がある:
- エンツォ・フェラーリの最後の監修モデル
- 純粋なアナログ性能とドライビングフィール
- 電子制御なしの“最後のフェラーリ”
- 製造台数わずか1,311台(うち国内向けは約60台)
F40は単なる高性能車ではなく、「歴史上の転換点に立つ機械」として認識されている。
後継モデルへの遺伝子継承
F40は後継車たちに明確な影響を与えている。以下は、F40とその後の“フェラーリ・ハイパーカー系譜”の比較である:
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モデル |
発表年 |
特徴 |
F40との共通点 |
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F50 |
1995年 |
NA V12+カーボンモノコック |
F1直系エンジン、軽量志向 |
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Enzo |
2002年 |
カーボン製F1マチック+V12 |
限定車、F1技術の転用 |
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LaFerrari |
2013年 |
ハイブリッドV12(KERS) |
“究極”を目指したコンセプト |
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SF90 Stradale |
2019年 |
PHEV+AWD+電子制御 |
パワー重視、F1の直系テクノロジー |
F40以降、フェラーリのフラッグシップは明確にハイテク&高価格化していったが、「極限まで軽く、運転が難しい」というF40の哲学は今もコア・ファンに受け継がれている。
F40が残した哲学:スピードとピュリティ
現代のハイパーカーは、1000psを超える出力、数十の電子制御、カーボンモノコック、アクティブサスペンション、AIサポートなどを搭載している。だがその中で、F40はまったく異なる方向性――「ピュア・ドライビング」を今もなお象徴する。
- ドライバーがミスをすればスピンする
- アクセルとブレーキの全てが“自己責任”
- 快適装備は皆無
- それでも「走る」ことに全てを捧げている
F40は、機械に乗っているというよりも、「機械と戦っている」感覚を与える唯一無二の存在だ。
“エンツォの遺言”としてのF40
フェラーリ創業者エンツォ・フェラーリはF40の開発中、自らこう語ったとされている:
「これは純粋なドライバーのためのフェラーリだ。マーケティングのためではない。魂のためだ。」
エンツォの死はF40発表の翌年、1988年。彼はこのクルマが「自動車とは何か」の本質を後世に問いかける“遺言”となることを知っていたのかもしれない。
F40は終わりではなく、原点として、今なお多くのドライバーやジャーナリストに語り継がれている。
連載を終えて:F40とは何だったのか?
フェラーリF40は、単なる「速い車」ではない。
それは“本能”と“技術”が交差する場所に存在する、ピュアな走りの彫刻である。
そして、それが今なお神話として語られ続けている理由でもある。
連載構成:「フェラーリF40のすべて」シリーズ(全6回)
第1回:F40誕生の背景 ― エンツォの遺言と288GTO Evoluzione
第2回:設計思想と開発体制 ― 軽量化・ターボ・空力の三位一体
第3回:F40のパワートレインとシャシー ― 極限の走行性能
第4回:F40のデザインと素材革命 ― カーボンとアグレッシブの融合
第5回:公道最速の称号とモータースポーツへの挑戦
第6回:現在の市場価値とF40の遺伝子 ― ハイパーカー時代への影響











