フェラーリF40のパワートレインとシャシー ― 極限の走行性能 |連載企画「フェラーリF40のすべて(第3回)」

2025.07.24

エンジン:2.9L V8ツインターボ ― スパルタンの極み

フェラーリF40の心臓部には、288GTOから改良を重ねた2.936ccのV型8気筒DOHCツインターボエンジン(F120A型)が搭載されている。このユニットは、IHI製水冷式ターボチャージャーを2基搭載し、最大出力は478ps/7,000rpm、最大トルクは577Nm/4,000rpmに達する。

このエンジンはカタログスペック以上に「野性味」がある。ターボラグが大きく、3,000rpm以下では穏やかだが、4,000rpmを超えた瞬間に突如としてパワーが炸裂する。いわゆる“ドッカンターボ”の挙動をあえて残したのは、マテラッツィの「マシンと格闘する面白さ」を最重視した結果である。

なお、エンジンブロックは軽量なニカジル処理を施したアルミ合金製で、ドライサンプ式潤滑、インタークーラーも大容量化されている。これらはF1と耐久レースの現場での知見が直接活かされており、公道車としては異例の本気度で開発された。

ギアボックスと駆動方式 ― 純粋なRWDとクロスレシオ

F40のトランスミッションは5速MT(ギア比はクロスレシオ気味)で、もちろんクラッチ操作は完全手動。変速フィールは重めで機械的な節度があり、ダブルクラッチを駆使するドライビングが要求される。

駆動方式はFRではなく、ミドシップRWD(MR)。エンジンがキャビン直後にマウントされることで、重量配分は約43:57と後輪寄り。この構成は、加速時のトラクション性能を最大限に引き出すための設計だ。

現代のスーパーカーと違い、F40にはトラクションコントロールもLSDも電子制御アシストもない。そのため、アクセルワークひとつでスピンか加速かが決まる。これが「操る楽しさ」として語り継がれている理由でもある。

ブレーキとサスペンション ― 公道用とは思えないレーシングスペック

ブレーキはブレンボ製のベンチレーテッドディスクブレーキ(前後)を採用。サイズはフロントが330mm、リアが305mmで、キャリパーは4ピストン。これにより、高速域からの急制動でも極めて高い制動安定性を誇る。

ただし、ABSは非搭載。ブレーキのロックやスキッドを防ぐのはドライバーの足裏感覚に委ねられる。つまり「止める技術」も問われるクルマなのだ。

サスペンションは前後ともダブルウィッシュボーン+アンチロールバーで、レーシングカー同様の構成。加えて、フロントは車高調整機構付き油圧リフト機構を備えており、段差の多い市街地でも最低限のクリアランス確保が可能だ。

タイヤとホイール ― Pirelli P-Zeroの誕生と専用設計

F40のために、ピレリは専用のP-Zeroタイヤを新開発した。前245/40ZR17、後335/35ZR17というサイズは当時としては異例のワイドタイヤであり、リアの接地性とトラクション確保に寄与している。

ホイールはスピードライン製の軽量マグネシウム製5スポークホイール。これもバネ下重量を低減し、ハンドリング性能を高めるための措置である。

走行性能の総合評価 ― “速さ”より“刺激”

F40の0-100km/h加速は約3.8秒、最高速は324km/h(当時世界最速の市販車)。しかしこの車の真の価値は、単なる数値ではなく「ドライバーの腕が露わになる」という点にある。

すべてが“ピュア”であり、“無慈悲”であり、“正直”。それがF40の走行性能であり、現代のスーパーカーには見られない、アナログ時代最後のピュアスポーツの矜持である。

次回予告:
第4回「F40のデザインと素材革命 ― カーボンとアグレッシブの融合」では、ピニンファリーナによる空力重視のスタイリング、素材選定、インテリアの簡素化など、美学と工学が交差するF40の外観を掘り下げます。

連載構成:「フェラーリF40のすべて」シリーズ(全6回)

第1回:F40誕生の背景 ― エンツォの遺言と288GTO Evoluzione
第2回:設計思想と開発体制 ― 軽量化・ターボ・空力の三位一体
第3回:F40のパワートレインとシャシー ― 極限の走行性能
第4回:F40のデザインと素材革命 ― カーボンとアグレッシブの融合
第5回:公道最速の称号とモータースポーツへの挑戦
第6回:現在の市場価値とF40の遺伝子 ― ハイパーカー時代への影響