アバルト595の進化と魂 【第5回】EV時代を前に、小さな咆哮はどこへ向かう?

2025.04.21

アバルト500eが示す、“音なき毒”の新境地

内燃機関が奏でる乾いたエキゾーストサウンド。

それこそが、これまでのアバルト595を支えてきた“感情の源”だった。

だが、時代は変わる。環境規制の強化、都市型モビリティの進化――いま、アバルトもまた“静かな走り”を求められている。

そして2022年、ついに登場したのがAbarth 500e

それは、音を失っても“魂”は失わないという、サソリの次なる姿だった。


■ Abarth 500e、静かなるデビュー

フィアット500e(電気自動車版500)のプラットフォームをベースに、アバルトが本気で仕上げたのがこのAbarth 500eである。

  • モーター出力:155ps、最大トルク235Nm

  • 0-100km/h加速:7.0秒

  • 専用チューニングのシャシーとブレーキ

  • 独自開発の“サウンドジェネレーター”搭載

電動車の課題の一つである“無音の違和感”に対し、アバルトは真っ向から挑戦。

**走行中に人工的にエンジン音を発生させる「アバルト・サウンドジェネレーター」**を採用し、まるで過去のT-Jetターボのような咆哮を再現している。


■ アバルト流EVの面白さ

アバルト500eは、ただ電気で動く595ではない。

そこには、新時代の走りの愉しみ方が凝縮されている。

  • アクセルを踏んだ瞬間から立ち上がるトルクで“無音加速”

  • コーナリング重視のロール剛性設計

  • アバルト専用デザイン(グリーンのスコーピオンエンブレム、専用ホイール)

  • モード切り替えで“ガチ走り”も街乗りも両立

音がない代わりに、“加速G”で魅せる。

排気の代わりに、“無音の滑走感”で包む。

これこそが、アバルトが提案する新しい「刺激」のかたちなのだ。


■ 音のないアバルトは“アリ”なのか?

ファンの中では賛否もあった。

  • 「やっぱりレコードモンツァの音が恋しい」

  • 「EVって感情を動かさないでしょ?」

だが、実際に試乗したユーザーや評論家からはこうした声も:

「音はなくても、笑顔は残る」

「このサイズでこれだけ速くて、しかもアバルトっぽいってすごい」

「未来を感じる。けどちゃんと“楽しい”がある」

つまり、音はアバルトの魂の一部だったが、“すべて”ではなかったということが証明されたのである。


■ 次のアバルトへ――サソリの未来

アバルトはすでに、電動モデル中心のブランドへと進化を始めている。

  • 将来的にEV専用ブランドとなる可能性も明言

  • コラボや限定仕様は今後も継続展開予定

  • “過激なEVホットハッチ”という未開ジャンルで先行者的立ち位置を確保

そして、電動化の時代であっても、アバルトが掲げる哲学は変わらない。

「毎日を刺激的に走れ」

小さな車体に、大きな個性。

たとえ音が消えても、走る喜びがある限り――

サソリの咆哮は、形を変えて走り続ける。


締めくくりに:アバルト595という“文化”

全5回にわたってお届けしたアバルト595の物語。

それは単なるホットハッチの歴史ではなく、

**“クルマを愛するとはどういうことか”**を教えてくれる文化の記録でもある。

軽さ、速さ、音、デザイン、そして何よりも“遊び心”。

そのすべてが、今もアバルトのスコーピオンに息づいている。

【連載第一回へ】

 

 


連載目次:小さな毒蛇の咆哮 ― アバルト595の進化と魂

【第1回】アバルトの起源と“チューンド500”の誕生
【第2回】ブランドの消滅と復活への胎動(1980〜2000年代)
【第3回】2008年、アバルト595として復活
【第4回】特別仕様車と“イタリア流ホットハッチ”の確立
【第5回】EV時代を前に、小さな咆哮はどこへ向かう?

【番外編1】アバルト595 オーナーのリアルボイス
【番外編2】アバルト595 サーキット仕様オーナーの声
【番外編3】アバルト595 vs アバルト500e 乗り比べオーナー対談