アバルト595の進化と魂 【第4回】特別仕様車と“イタリア流ホットハッチ”の確立

2025.04.21

キャラクターで選ぶ、595/695の多彩な世界

アバルト595が登場して以降、その進化は“高性能化”にとどまらず、個性と物語の拡張に重きを置くようになった。

それはまるで、アパレルブランドがシーズンごとにコレクションを展開するように――。

アバルトは595/695シリーズに、鮮烈なキャラクターを吹き込んでいった。


■ 595シリーズの多様なグレード展開

アバルト595は、そのコンパクトなベースを最大限に活かし、以下のような主力モデルを展開。

◯ 595 Turismo(ツーリズモ)

  • シックでラグジュアリーな内装

  • レザーシートやクローム加飾

  • 走りよりも“イタリア車らしい色気”を楽しみたい人向け

◯ 595 Competizione(コンペティツィオーネ)

  • ブレンボ製ブレーキ、Sabeltバケットシート

  • レコードモンツァ・マフラー装着

  • 走りを本気で楽しむ“通好みの一本”

◯ 595C(カブリオレ)

  • 電動ソフトトップ付きのオープンモデル

  • トップを開けてレコードモンツァの音をダイレクトに楽しめる

  • 街を流す楽しさが格別

◯ 695シリーズ(特別な595の上位ブランド)

  • 出力180ps、カーボンパーツ多数採用

  • ハードコアなシャシーセッティング

  • “ファクトリー製レーシングカー”に最も近い仕様


■ 限定モデルの展開と“ファッション性”

アバルトは単なるスペック争いには興味がない。

むしろブランドとして目指したのは、「走るアイコン」になることだった。

その象徴が、数々の限定モデル:

モデル名 特徴・コラボ内容
695 Tributo Ferrari フェラーリとの公式コラボ。内外装が赤×カーボンで統一
595 Yamaha Factory Racing MotoGPチームとのタイアップモデル
595 Monster Energy Yamaha スポーティでポップな若者向け限定
695 Biposto 徹底した軽量化&ロールケージ装着。ナンバー付きレーサー
595C Riva 高級ボートブランドとのコラボ。贅沢なウッドインテリア

これらは単なる装飾ではなく、“持つ喜び”“見られる快感”“話題になる力”を高めるための演出だ。


■ カスタムカルチャーとオーナー同士の絆

アバルトの楽しみは、所有して終わりではない。

イベント、オフ会、ツーリング……アバルトオーナーたちはクルマを通じて「コミュニティ」を築く

  • アバルトデイ(全国規模の公式ミーティング)

  • 各地域のオーナーズクラブ(関西・東海・九州など)

  • SNSでは“#abarth595”の投稿が日々盛況

自分のカスタムを見せ合い、音を聴き比べ、ストライプの色にこだわる――

それはもはや、自己表現としてのクルマ文化だ。


■ まとめ:アバルト595は“走るブティック”である

アバルト595は、ホットハッチの文脈において唯一無二の存在だ。

速さや数値ではなく、感性・遊び・語れるデザインを武器にし、クルマ好きの心に突き刺さる。

それはまさに、「イタリア流ホットハッチ」という新たなジャンルの確立であり、

“持つことが楽しいクルマ”として、今なお多くのファンを魅了し続けている。


次回は連載最終回。

「EV時代を前に、小さな咆哮はどこへ向かう?」――アバルト500eの登場と今後の展望に迫ります。

 


連載目次:小さな毒蛇の咆哮 ― アバルト595の進化と魂

【第1回】アバルトの起源と“チューンド500”の誕生
【第2回】ブランドの消滅と復活への胎動(1980〜2000年代)
【第3回】2008年、アバルト595として復活
【第4回】特別仕様車と“イタリア流ホットハッチ”の確立
【第5回】EV時代を前に、小さな咆哮はどこへ向かう?

【番外編1】アバルト595 オーナーのリアルボイス
【番外編2】アバルト595 サーキット仕様オーナーの声
【番外編3】アバルト595 vs アバルト500e 乗り比べオーナー対談