アバルト595の進化と魂 【第3回】2008年、アバルト595として復活

2025.04.21

スタイルと性能を両立した“ホットハッチの再定義”

2007年、アバルトは完全に独立したブランドとしてフィアット傘下に復活。そして翌2008年、世界のファンが待ちわびた**「アバルト500」**がついに登場する。

可愛らしいフィアット500の見た目をまといながら、その内側に秘められた毒――それが、新生アバルトの再スタートだった。


■ ベース車両は新型フィアット500(2007年デビュー)

アバルト500のベースは、同年デビューした新型Fiat 500(Type 312)。

レトロモダンなデザイン、コンパクトなボディ、都市型カーとして成功を収めたこのモデルに対して、アバルトは以下のような大幅なモディファイを施した。

  • 1.4L T-Jetターボエンジン(135ps)を搭載

  • 専用サスペンション、ブレーキ、エアロパーツ

  • アバルト専用内装(レザーシート、メーター類など)

  • 独特の咆哮を放つエキゾーストシステム

これにより、見た目は“可愛い”、走りは“過激”というユニークな個性を獲得。

まさに「小さな猛獣」「サソリの化身」と呼ぶにふさわしいマシンだった。


■ “アバルト595”という名称の復活

2012年、アバルト500の改良モデルとして登場したのが「アバルト595」。

この名前は、1950年代後半に登場した“初代Abarth 595”をリスペクトしたもの。名前だけでなく、パフォーマンスも段違いに進化していた。

  • 出力は140ps〜180psまで多段階に展開

  • “595 Competizione”ではブレンボ製ブレーキ、Sabelt製バケットシートを採用

  • “595 Turismo”では高級感を強調した装備

  • 限定グレード“695”も復活し、さらに尖った仕様が登場

このようにアバルト595は、単なる“チューンドカー”ではなく、明確にコンセプトが分かれたモデル群としてシリーズ化されていく。


■ アバルトのチューニング哲学:“刺激こそが価値”

アバルトのチューニングには、一貫した思想がある。それは、

「数字では測れない楽しさを追求する」

ということ。

例えば、他のホットハッチのように0-100km/h加速が極端に速いわけではない。だが、ハンドルの初期応答、アクセルレスポンス、シフトフィール、エンジン音――それらが織りなすドライビング体験が、唯一無二の刺激を生み出す。

コンパクトなFF車ならではの機敏さ、短いホイールベースゆえの“曲がる楽しさ”、そして乾いた咆哮。それらすべてが“アバルトらしさ”であり、595というナンバーに込められた遺伝子なのだ。


■ カスタマイズの自由とファンコミュニティの拡大

アバルト595が人気を集めたもう一つの理由は、カスタマイズの自由度にある。

  • 無数のボディカラー&ストライプ

  • アクセサリーパーツ(ホイール、デカール、ミラーキャップなど)

  • 純正オプションによる“自分だけのアバルト”作り

その結果、アバルトオーナーの間ではオフ会、ツーリング、カスタムバトルなどが活発化し、まるでかつてのミニやビートルのような“熱狂するユーザー文化”が育っていった。


■ まとめ:アバルト595は“ブランド再生”の象徴だった

フィアットにとって、アバルト595は単なる高性能モデルではなかった。

それは**「走りへの情熱」と「ブランドイメージの若返り」を同時に達成する**キーとなる存在だった。

そして何より、アバルト595が登場したことで「再びアバルトの咆哮を聴ける」という歓喜を世界中のファンに届けることができたのだ。


次回は、第4回「特別仕様車と“イタリア流ホットハッチ”の確立」――アバルト595/695がいかに個性を拡張し、世界のカーシーンに定着していったかを掘り下げていきます。

 


連載目次:小さな毒蛇の咆哮 ― アバルト595の進化と魂

【第1回】アバルトの起源と“チューンド500”の誕生
【第2回】ブランドの消滅と復活への胎動(1980〜2000年代)
【第3回】2008年、アバルト595として復活
【第4回】特別仕様車と“イタリア流ホットハッチ”の確立
【第5回】EV時代を前に、小さな咆哮はどこへ向かう?

【番外編1】アバルト595 オーナーのリアルボイス
【番外編2】アバルト595 サーキット仕様オーナーの声
【番外編3】アバルト595 vs アバルト500e 乗り比べオーナー対談