新型が誕生した今、改めて80年代のフェラーリ テスタロッサの魅力と進化を振り返る:前編(書き手:高桑秀典)

2025.10.29

21世紀に蘇った新型テスタロッサの前モデル

フェラーリ伝統の車名を持つ“テスタロッサ”がデビューしたのは1984年のこと。

365 GT4 BB、512BB、512BBiと続いた12気筒ベルリネッタボクサー・シリーズが築いたマーケットを受け継ぐニューモデルとして投入された。

満を持して登場したこともあり、その完成度の高さ、存在感は圧倒的だった。

近年のフェラーリの文法通り、テスタロッサもピニンファリーナによってデザインされた美しいボディを持ち、見る者に強い印象を与えた。

剛性面で負担が大きいキャビンまわりはスチール製で、その他のパートは軽量なアルミニウムによって構成されていた。

革新的なサイドフィン

サイドデッキに大胆なスリットが入ったテスタロッサのスタイルはエレガントのひと言で、先代モデルとなったベルリネッタボクサー・シリーズとは趣を異にするが、プロポーションの秀逸さでは同等、もしくは、それ以上だったといえる。

512BBiの時代から、フェラーリの12気筒モデルは、よりはっきりと快適性を求めるようになったが、テスタロッサは各部位においてそれが結実したものだといえ、スタイルの中からもラグジュアリーな雰囲気を見て取れた。

ボディのディメンジョンを見てみると、512BBiよりも、全長が85mm、全幅が145mm、全高が10mmほど大型化されていた。

なかでも、全幅は145mmも拡大され、現車を目の当たりにすると、テスタロッサの圧倒的な存在感が、もう少しで2mに達するというワイドボディによって醸し出されていることに気づく。

今日的な視点で見ても、テスタロッサの空気の流れを象徴するかのような優美さは群を抜いているので、いつの時代にもピニンファリーナは“いい仕事をしてきた”といえるだろう。

各方向にサイズの拡大が図られていることもあり、車両重量の増大が懸念されたが、実際には512BBi比でマイナス74kgを実現していた。

新時代のフェラーリを象徴

ボディのマテリアルとしてアルミニウムを採用したことが軽量化につながったが、ボディを拡大したにもかかわらず、軽量化を達成したというエピソードからも、テスタロッサが新時代のフェラーリであることを窺い知れた。

テスタロッサの基本骨格は、ボックス断面のチューブラーフレームで、メインセクションの前後にサブフレームを配し、そこにサスペンションやパワーユニットをマウントするという、フェラーリ伝統の手法が採用されていた。

しかし、このサブフレームは、テスタロッサの後継モデルとして1992年に登場した512TRが軽量化と高い剛性力の実現を目的として新型チューブラーフレームを採用した際に廃止されてしまった。

そういったこともあり、脈々と受け継がれてきたフェラーリ伝統の工法と’80年代の最新技術が融合しているテスタロッサの存在意義は大きいといえる。

走行面においても古典的な味わいを楽しめる点がテスタロッサの特徴で、5速MTの操作フィールなどもボールベアリングを採用した512TRのそれとは明らかに異なる昔ながらの感触だといえる。

テスタロッサから512TRへ

テスタロッサは、大別すると1987年半ばまでの前期型と、その後、1991年まで生産された後期型に分類することができる。

燃料供給装置が前期型はボッシュ製Kジェトロニック、後期型は同じくボッシュ製KEジェトロニックということになる。

両車はマキシマム・パワーこそ同じものの、アクセル・レスポンスに明確な違いがあり、後期型のほうがより魅惑的な走りを楽しめた。

前期型と後期型では、サスペンションを構成するアーム類にも違いが現れており、やはり、後期型のほうが剛性面でも確かなアドバンテージがあった。

テスタロッサは512TRの登場により、1992年に引退した。

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