フェラーリ 296 GTBと“現代のディーノ”論争——跳ね馬が描くミッドシップの系譜を、元祖「日本一のフェラーリ使い」太田哲也が考察

2025.07.04

V12至上主義から時代は遥かに流れ、現代フェラーリが生み出したV6モデル

現行モデルのフェラーリ 296 GTBが発表されたとき、フェラーリは「跳ね馬のバッジを付けたロードカーに6気筒エンジンが搭載されるのは初めて」と説明した。

クルマ好きにとっては、「ついに現代版ディーノの登場か!?」と期待が高まったが、実際にはそのような公式の位置づけはされなかった。

確かに現行296 GTBは“スモール・フェラーリ”に見えるかもしれない。しかし、あの「ディーノの再来」を熱望していた層にとっては、やや肩透かしの感も否めない。

“フェラーリではないフェラーリ”として生まれたディーノ

そもそもディーノは、フェラーリ初の量産ミッドシップ・スポーツカーでありながら、跳ね馬のエンブレムを持たなかった。これは、創業者エンツォ・フェラーリが亡き息子アルフレード・“ディーノ”・フェラーリに捧げたブランドであり、そのため「Ferrari」ブランドではなく「DINO」ブランドの名を冠して登場したのだ。

V6エンジン、ミッドシップレイアウトだが、実際に走らせてみると意外に脚がやわらかく、軽快な走行感覚で、ミッド車でイメージする強大なグリップ・トラクション性とは一線を画す。

当時のフェラーリと比べて運転もしやすかった。現役時代の僕が、戦うフェラーリではなく、パートナーとして選んだのはこの優しい性格のディーノだった。そして現在に至る。

296 GTBは“ディーノの再来”と呼べるのか?

2021年に登場した296 GTBは、V6ツインターボエンジンにハイブリッドシステムを組み合わせ、最高出力830cvというハイパワーを誇る。最新テクノロジーが詰め込まれた2シーター・ミッドリア・ベルリネッタである。

「296」というネーミング(=2.9リッター・6気筒)と「GTB」という伝統的なモデル記号は、明らかに往年のモデルを意識したものだ。フェラーリのデザインアナウンスを再確認すると、296 GTBのBピラーのカットラインやリアフェンダー、そして短く切り詰められたテールなどの要素は、1963年登場の250 LMからインスパイアされたものだという。

250 LMはGTホモロゲーション取得のために少量生産された、ほぼレーシングカーのような存在で、フェラーリの市販モデルとして初めてミッドシップレイアウトを採用したモデルでもある。

僕はこの250 LMをサーキットで走らせた経験がある。FRフェラーリとはまったく異なる挙動で、トラクション性能が極めて高く、のちのF355や360モデナに通じる“典型的なミッドシップ・フェラーリ”だと直感した記憶が今も鮮明に残っている。

ミドシップデザインの系譜:ディーノから360 モデナへ

250 LMとディーノで確立されたミッドシップ・スポーツカーの基本スタイルは、やがて360 モデナへと引き継がれる。たとえば360 モデナが登場したとき、V8エンジン搭載車でありながら、その流麗なピニンファリーナ製ボディにはどこかディーノっぽさを感じたものだ。

それまでの355までが採用していたトンネルバックスタイルから一新し、空力性能を重視した新しい造形となった360 モデナ。そのエンジンルームへのエアインテークやリアフェンダーの曲線には、250 LMやディーノの意匠が織り込まれていたようだ。

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