EV時代にスポーツカーは消える?

EV時代になると、スポーツカーはどうなるのか。
電気自動車(EV)というと、環境性能や航続距離、充電時間、長距離移動の自由度などの実用性で語られることが多い。この点に関して、現時点ではまだガソリン車に分がある。
さらにスポーツ走行という視点で見ても、大出力を謳うEVは存在するが、その圧倒的なパワーを発揮できるのは一瞬で、連続走行を続けるとなるとバッテリー温度上昇による出力制御などの問題があり、現状ではガソリンエンジン車には到底かなわない。
確かに電気モーターは瞬間的に大きなトルクを発生できるので、発進加速では驚異的な速さを見せる。しかし、スポーツカーとして重要なのは、一瞬の速さだけではない。
連続走行ができ、ドライバーがクルマとの対話を楽しめること。限界領域でも性能を維持できること。
そこまで考えると、EVスポーツはまだ発展途上だ。
しかし、「EVスポーツ」という新しいカテゴリーの未来を考えると、可能性を感じている。
というわけで、現在、ヒョンデ・アイオニック5Nを相棒として、EVスポーツの楽しみ方を模索しつつ、未来を期待している。
650PSのスポーツカーが1000万円以下で手に入る時代

アイオニック5Nは、84kWhという大容量バッテリーを搭載し、前後モーターによる四輪駆動システムを採用。通常時でも最高出力448kW(609PS)、最大トルク740Nmを発生する。
さらに「Nグリンブースト」をオンにすると、10秒間だけ最高出力は478kW(650PS)、最大トルク770Nmまで引き上げられる。
もしガソリンエンジン車で650PS級のスポーツカーを購入しようと思えば、数千万円の出費を覚悟しなければならないだろう。
しかしアイオニック5Nなら、1000万円以下で、それに匹敵するようなパフォーマンスを手に入れることができる。
つまり、これまで一部の高価なスーパースポーツだけが持っていた600PS超という世界が、より身近になるのだ。
もちろん、最高出力の数字だけを見れば、それは一瞬の驚きに過ぎない。
重要なのは、その大パワーをどれだけ楽しみ続けることができるのかだ。
サーキットで分かったEVメーカーの思想の違い

EVのスポーツ性を評価する場合、カタログスペックだけでは判断できない。
同じステージとなる筑波サーキットで3台のEVを走らせたことで、バッテリーの熱管理をメーカーがどのように考えているのか。カタログには表れないメーカーごとの考え方の違いが見えてきた。
大きく分けると、EVには3つのバッテリーマネージメントの考え方がある。
ひとつは、二代目日産リーフのように、バッテリー温度の上昇とともに出力を徐々に低下させつつ、設定温度に達するとさらに大幅に出力を制限するタイプ。
ふたつめは、BYDシールのように、走行開始時点からバッテリー温度の上昇に合わせて、出力制御を強めていくタイプ。
そしてみっつめはアイオニック5Nのように、ある程度までは温度が上昇しても高い出力を維持させるタイプである。
この違いは、実際のサーキット走行で明確に表れる。
二代目リーフは、バッテリー容量が小さく、さらに冷却機構を持たない。そのため全開走行を始めるとバッテリー温度が上昇し、一周2kmの筑波サーキットでは5〜6周程度で56℃付近に達し、セーフモードに入る。すると出力が半減し、スポーツ走行を楽しめる状態ではなくなる。
もっとも、日常の移動ではセーフモードに入ることはないだろう。しかし、山道などで勢いよく走れば、同じように制御が入る可能性はあるはずだ。

BYDシールの場合は、全開走行を開始すると、バッテリー温度の上昇に合わせて出力制御を強めていく。これは公道では、ドライバーにクルマの状態を伝える手段として意味があるだろう。
しかし、サーキットにおいては、走行を重ねるほどタイムが落ちてしまうこととなる。つまり両車とも、サーキット走行のことなどまったく考えていない。
一方、アイオニック5Nは、その日の気温が25℃で、停車中のバッテリー温度も外気温と同じ約25℃だった。走行して55℃になるとセーフモードに入る設定だが、冷却システムを備えているため、6〜7周走行してもバッテリー温度は25℃から約30℃までしか上昇しなかった。
そのため、高い出力を維持し、サーキットでの走行でも3〜4回程度のタイムアタックが可能だった。
もちろん理想を言えば、最初の1周目でベストタイムを出すべきだ。しかし、実際のサーキットでは前走車との位置関係やコース上の混雑などがあり、必ずしも理想通りにはいかない。
その中で複数回アタックできる余裕がある5Nは、EVスポーツにとって重要な性能だ。
一発の速さだけではなく、何周走ってもある程度の性能を維持し、ドライバーが走りを楽しみ続けられること。それが今後のEVスポーツに求められる重要な性能だと思う。
スポーツEVはブレーキまで作り込まれている

限界走行をすると、カタログに記載されたスペックだけでは分からない、開発者の考え方が見えてくる。
EVスポーツを名乗るのであれば、単に大きな出力を発生させるだけでは不十分だ。
パワーを受け止めるシャシー、タイヤ、ブレーキ、そして冷却システムまで含めて、スポーツ走行を成立させるための作り込みが必要になる。
バッテリーの熱管理と同じように、ブレーキにもメーカーの考え方が表れる。
先日、現行型となる3代目リーフを追浜にあるテストコースで試乗した。
装着されていた新デザインのディッシュ・ホイールは、空力抵抗の低減を重視した設計だ。EVとして航続距離を伸ばすという意味では合理的な選択である。
しかし、ブレーキ冷却という面では、スポーツ走行を意識したものではなかった。そのため連続して負荷をかけるとブレーキのフェードが発生した。
これはリーフが悪いということではない。
そもそもの開発思想が、サーキットで限界走行を楽しむことを目的にしていないからだ。街中での移動や日常使用を考えれば、そこまでのブレーキ性能は必要ないという判断だろう。

一方、アイオニック5Nは、大型ブレーキローターに対向ピストンキャリパーを組み合わせている。
先日の筑波サーキットでのタイムアタックでは、初めての走行だったため、それほど限界まで攻め込んだわけではないが、ブレーキのフェード現象は発生しなかった。
もちろん、今後さらに走り込めば、新たに見えてくる部分もあるだろう。しかし、ブレーキを含めた車両全体から、アイオニック5Nが単なる高出力を謳うだけではなく、スポーツ走行を明確に意識して開発されたモデルであることが伝わってきた。
EVスポーツに必要なのは、カタログに記載された最高出力の数字だけではない。
そのパワーを何度も楽しむことができる性能。そして、それを受け止める車両全体の完成度。アイオニック5Nは、そこまで考えられたことが限界走行で見えてきた。
アイオニック5NはEVスポーツの始まりになるのか

アイオニック5Nの存在は、EVにも「走る楽しさ」という新しい価値を持ち込める可能性を示している。
EVはこれまで、二酸化炭素排出量削減をはじめとする環境性能や、静粛性、効率性といった側面から語られることが多かった。しかし、スポーツカーという視点で見ると、EVにはガソリンエンジン車とは異なる可能性がある。
電気モーターならではの瞬間的なトルク発生能力、前後モーターによる緻密な駆動力制御、そしてソフトウェアによる新しい走りの演出。これらは、これまでのガソリンエンジンスポーツカーにはなかったEVならではの魅力である。
もちろん、現時点ではEVがスポーツカーとして成立しているわけではない。今後は、大出力を謳うだけでなく、その性能を継続して発揮できること。そして、サーキットでドライバーが楽しめること。そこまで考えられるようになれば、スポーツカーとして認められるようになるだろう。
ハイパワーなガソリンエンジンスポーツカーの価格が高騰する中で、EVが新しいスポーツカーの道を開くかもしれない。アイオニック5Nは、その可能性を秘めた一台だと思う。

そして、同じ方向性を持つモデルとして、テスラ モデル3パフォーマンスも存在する。
この2台が、今後EVスポーツというカテゴリーをどのように発展させていくのかは興味深い。
歴史的な名車というものは、登場した瞬間には本当の価値が分からない。
時代が変わり、その意味が振り返られた時に評価される。
かつてポルシェ911やマツダ ロードスターも、誕生した時点で将来の評価が決まっていたわけではない。
しかし、時代を超えて愛されるクルマには、単なる性能だけではなく、その時代に新しい価値を示したという共通点がある。
100年後のモータージャーナリストが振り返った時、
「EVスポーツの始まりは、アイオニック5Nとテスラ モデル3パフォーマンスだった」
と評価する時代が来るのかもしれない。
少なくとも現在、EVスポーツという新しいジャンルの扉を開く可能性を持った存在であることは間違いない。
▽その他のヒョンデ アイオニック5Nの記事はこちらからどうぞ
・速さだけじゃない! ヒョンデ アイオニック5Nが格好いいのには理由があった
・アイオニック5 Nはなぜ負けた? 筑波80Rで明暗を分けたハイパフォーマンスEVの走らせ方
・EV最速の鍵は“温度と1周目”|ヒョンデ アイオニック5N筑波アタック徹底分析
・ヒョンデ アイオニック5Nは速いのか? 筑波サーキットで実証されたEVスポーツの実力
・ヒョンデ「アイオニック5N」導入! 650PSのEVはサーキットで通用するのか?












