アルピーヌの未来 ― EVシフト時代におけるA110のポジションと後継構想|A110連載第5回

2025.05.09

〜「軽さと愉しさ」を次世代にどう継承するか〜


【導入】

アルピーヌA110は、現代スポーツカー界において特異な存在だった。軽量、MR、ピュアドライビング――。だが2020年代も半ばを迎え、電動化の波はスポーツカーの領域にも確実に押し寄せている

アルピーヌは、この新しい時代にどのような未来を描いているのか。A110の果たした役割と、EV時代におけるブランドの再構築に注目する。


【1】A110が担った「ブランド再興」の旗艦役

2017年に復活を遂げたアルピーヌ。その核にいたのがA110だった。

この車は単なる“懐古モデル”ではなく、現代に通用するライトウェイトスポーツとして確かな存在感を示した。

  • 専用工場の再稼働(フランス・ディエップ)

  • 高評価:欧州カー・オブ・ザ・イヤー最終選考ノミネート

  • ポルシェやロータスと並ぶ純粋スポーツブランドとして復活

A110は単にクルマとして売れる以上に、「アルピーヌとは何か」を現代ユーザーに知らしめる“ブランドのリマインダー”として機能したのである。


【2】EV時代へのシフトと3つの新世代モデル

ルノー・グループはアルピーヌブランドをフルEV専業メーカーへ移行させる方針を明確にしている。

2021年、CEOルカ・デ・メオ氏は「アルピーヌの将来はEVにある」と宣言し、次の3モデルがすでに開発中と発表された。

 1. アルピーヌ A290(EVホットハッチ)

  • ベース:ルノー5 EV(日本未導入)

  • FFハッチバックながら、アルピーヌらしいチューニング

  • 2025年初頭、欧州市場投入予定

 2. アルピーヌ GT X-Over(電動SUV)

  • ポルシェ・マカンEVを意識した、プレミアムスポーツSUV

  • 4WD、ハイパワー、ロングレンジ志向

  • ルノーCMF-EVプラットフォームベース

 3. 次世代A110(EVピュアスポーツ)

  • ロータスと共同開発中(英国Norfolkを拠点)

  • カーボン軽量構造と新世代EVパワートレイン

  • 2026〜2027年頃の発表が想定される


【3】次期A110に受け継がれる“軽さの哲学”は可能か?

EV化により、バッテリー重量は避けられない課題となる。

だがアルピーヌは、「軽量構造とドライバー重視の設計思想は、電動化時代にも生きる」と語る。

  • バッテリーパックの床下集中配置による低重心化

  • 複合素材・カーボンの積極的採用による軽量化

  • トルクベクタリングによる走行性能の進化

A110で培ったハンドリングとフィーリングへのこだわりは、EVでも変わらないという強い意志が技術陣からも感じられる。


【4】アルピーヌの文化的意義と“孤高の存在”としての魅力

A110は、「速さ」より「気持ちよさ」を追求した。EVの時代でも、この思想は通用するだろうか?

「アルピーヌが目指すのは、ゼロヒャクの速さではなく、運転する喜びそのものだ」

(CEO ルカ・デ・メオ)

市場が電動化し、スポーツカーが縮小する中でこそ、“軽快で官能的な小型EVスポーツ”の存在は貴重となる。ポルシェ、ロータス、ケータハムなどもその領域に動き始めており、アルピーヌはそのフロントランナーのひとつだ。


【結び】

アルピーヌA110は、軽さと愉しさを極限まで突き詰めた名作である。

その精神は、たとえ電動化の荒波にあっても消えることはない。むしろ、その本質的価値――“ドライビング・プレジャー”の追求こそが、これからの時代にこそ求められる指針なのかもしれない。


「アルピーヌA110再生の軌跡 ― 伝説を現代に蘇らせたスポーツカーのすべて」

【連載目次】

第1回:「復活した伝説 ― 新生アルピーヌA110が誕生するまでの背景」

第2回:「軽量×リアルスポーツの哲学 ― アルピーヌA110開発思想の核心」

第3回:「モータージャーナリストが唸った! アルピーヌA110の走りと乗り味」

第4回:「進化し続けるA110 ― S、GT、R、そしてサーキット仕様R-GTまで」

第5回:「アルピーヌの未来 ― EVシフト時代におけるA110のポジションと後継構想」

番外編1:オーナーレビュー|アルピーヌA110の実体験に基づく評価

番外編2:アルピーヌA110を買う前に知っておきたい5つの注意点