86歳ジウジアーロ、現役のまま語るデザインの核心と“使える美しさ”【オートモビル カウンシル2025】

2025.05.13

カーデザインの巨匠、その姿を現す

ついにこの日がやってきた。先日、カーデザインの神様 ジョルジェット・ジウジアーロ氏が来日したのだ。

クルマ好きなら誰もが一度は彼の名を目にし、きっとどこかでその作品に心を撃ち抜かれている。僕もそのひとりだ。そんな彼の姿を、この目で見られる──そんなチャンス、そうそうない。

2025年、記念すべき第10回目を迎えた「オートモビル カウンシル」では、その節目にふさわしく、「Giorgetto Giugiaro展 世界を変えたマエストロ」が開催された。

そして、ジウジアーロ本人が登壇するスペシャルトークショーまで実現したのだ。

ジウジアーロの原点は「画家志望の学生」。86歳で現役、神様は歳を取らない

トークでは彼のデザイン哲学、創作の裏側、あの時代の空気感がたっぷり語られた。印象的だったのは、芸術一家に育った彼が画家志望だったという原点。

そして、高校時代に描いたフィアット500トポリーノのスケッチが、当時のFIATの技術者であり伝説的カーデザイナーでもあるダンテ・ジアコーサの目に留まり、17歳でフィアットのデザイン部門=チェントロ・スティーレに招かれたというエピソードだ。

――たまたまイラストを見せた相手が、のちの偉人。人生、何があるか分からない。

そして、目の前に立つジウジアーロ氏本人。 1938年生まれ、なんと86歳。……とは思えない背筋の通った佇まい。シャープなスーツに映える銀髪。現役バリバリというより、“神様は歳を取らない”とでも言いたくなるオーラだった。

僕はその姿に、デザインというものの奥深さと、志を持ち続けることの強さを見た気がした。

思えば、ジウジアーロが関わったクルマに一度も乗ったことがないエンスージアストなんて、きっと少ない。なのに、彼の名前はどこか遠くの存在のように思えていた。

実際に会って、言葉を聞いて、その目に映った情熱に触れて──ああ、やっぱりこの人が時代を動かしたんだ、と実感した。運命が歴史を動かす。まさに“事実は小説より奇なり”。

展示された“Designed by Giugiaro”の名作たち

Designed by Giugiaro」展示エリアでは、歴史的名車が10台ずらりと並び、これがまた、美しいのなんの。かつての“未来”が今ここにある、そんな空間だった。

ちなみに展示車両は、以下の通り。フォルクスワーゲン ゴルフ(1974年)/アルファロメオ ジュリア スプリントGT1963年)/マセラティ メラクSS1972年)/BMW M11978年)/いすゞ アッソ・ディ・フィオーリ(1979年)/ランチア デルタ(1979年)/フィアット パンダ(1980年)/DMC デロリアン(1981年)/イタルデザイン アズテック(1988年)/バンディーニ ドーラ(2020年)

日本勢からは、マツダ 初代ルーチェのコンセプトモデル「プロトS8P」や、いすゞ 117クーペも展示されていた。これらもジウジアーロが“ちゃんと使える美しさ”を形にした作品だ。

MAZDA 前田育男が語る「ジウジアーロの美はロジックだ」

「スーパーカーがカッコイイのは当然だとして、ジウジアーロって大衆車であっても、とくに奇抜な形をしていないんだけど、なんかカッコいいんですよね。あれはなんでなんでしょうかね」と僕が言うと、即座に前田さんが「「ジウジアーロって、ロジックでデザインしてるんですよ」と答えてくれた。納得。

そう語るのは、マツダのシニアフェロー デザイン・ブランドスタイル監修を務める前田育男さん。オートモビル カウンシル会場で。二人ともジウジアーロのトークに吸い寄せられるように聞いていて、ばったりと再会したのだった。

「ゴルフ1とか!」

「初代マツダ ルーチェもジウジアーロのデザインですよ」

「ルーチェ、かっこよかったですよね」

「憧れを日常に落とし込める力がある。アートじゃなくて、プロダクトとしての説得力があるんです」

「美しさを機能の中にどう宿すか、それを突き詰めた人ですよ」

──そう、あの展示車たちが単なる懐古趣味に見えなかったのは、そのデザインに“今でも通用するロジック”が宿っていたからかもしれない。数値と理論に裏付けられているから、時代が変わっても古びない。“ちゃんと使える”でも美しい。そこがすごいのだ。

感性の勝負に見えるカーデザインの世界で、ジウジアーロはあくまで構造的に、論理的に美を追い求めた人だったのだろう。

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