BYD シール:EVの常識を覆すスポーツセダン

2025.01.09

2024-2025 日本 カー・オブ・ザ・イヤー 10ベストモデル「BYD シール」

欧州や日本でEVの販売が減少している昨今、補助金の縮小や消費者の関心の低下がその背景にあると言われている。中国メーカーの台頭もその理由の一つだ。

しかし、そんな状況の中で出会ったBYD シール(SEAL)は、僕の中で「EV=エコで退屈」というイメージを完全に覆してくれた存在だった。

期待しなかった試乗で驚きの連続

最初は期待していなかった。

正直に言えば、言葉は悪いが「どうせテスラを真似た中国製のクルマだろう」という先入観を持ちながら、今回「10ベストカー試乗会」でこのクルマに向き合ったのだった。

しかし実際に目の前にしたシールのスタイルは、もはや日本車には少なくなったスポーツクーペ的な雰囲気が漂い、しかも312PSの後輪駆動だと聞いて期待がふくらんだ。

最初に試乗したのは後輪駆動(RWD)仕様。最大トルクは360N・m、一充電走行距離は640km。このハイスペックだけでも驚くが、乗ってみるとさらに驚愕。「オマエはポルシェ911のEV版かッ!」と思ったほど速く、「EV=エコ」のイメージが吹き飛ぶ瞬間だった。

RWDとAWD、どちらも楽しい選択肢

 

RWDモデルはそのハイパワーゆえに、ブレーキタッチや前後バランスにややクセがあり、「俺だったらここを直す」というセッティングの余地があったものの、その粗削りな「クセ」が逆に御する面白さを生んでいた。気がついたら、スポーツカーに対する感覚で対峙していた。

続いて試乗した四輪駆動(AWD)モデルは、さらにパワフル。フロント最大トルク310N・m、リア最大トルク360N・mで、530PS。一充電走行距離は575km。0-100km/hを3.8秒で走破する強烈な加速性能には思わず笑みがこぼれる。四輪駆動のおかげで安定性が高まり、530PSあっても制御可能、かえってトリッキーさが薄れた印象だ。EVの新たな魅力を発見する体験だった。

EVが変えるスポーツカーの未来

ガソリンエンジンの500PS級スポーツカーを買うとしたら、いまや1000万円、いや2000万円以上が必要だが、BYD シールならその半分以下で手に入る。

しかも、バッテリー温度の冷却管理にも配慮されており、EVスポーツの弱点だったバッテリー温度上昇も抑えられ、速いけどすぐにセーフモードに入ってしまうこともない。これだけのパフォーマンスを備えながら、価格的にもスポーツカーとしては手が届きやすい存在だ。

さらに車内に乗り込むと、どこか「ウキッ」とする感覚があった。これはヒョンデ アイオニック(IONIQ)5 Nにも感じたことだが、クルマの開発者たちが楽しみながら作ったことが伝わってくる。その思いが、ユーザーにも響くのだろう。

EV黎明期のワクワク感とBYDの挑戦

かつて、日本車にもこうした「ウキッ」とするクルマが多く存在した。

デザイン的には洗練されてなくて、でも実際に使いやすい操作系やスイッチ類や、挙動のクセなど、そんな粗削りな感覚を消そうとし過ぎて、洗練されたが無機質なフィーリングになってしまった欧州車や日本車に比べて、シールには一昔前のクルマみたいな有機的要素が見て取れた。

前だけを見て、新しいことに挑戦するワクワク感を感じたのだ。この姿勢は、EVの黎明期だからこそ見られるものかもしれない。

太田哲也の視点:BYD シールは買い得か?

BYD シールは、間違いなくコストパフォーマンスに優れたスポーツセダンだ。

個人的にはRWDの荒削りな魅力も捨てがたいが、AWDのパワーも魅力的。

EVに興味がなかった人も、ぜひ一度試乗してみてほしい。

BYD シール(RWD)

●全長×全幅×全高:4,800mm×1,875mm×1,460mm
●ホイールベース:2,920mm
●車両重量:2,100kg
●電動機(モーター):永久磁石同期モーター
●最高出力:230kW(312PS)
●最大トルク:360N・m
●駆動用バッテリー:リチウムイオンバッテリー
●総電力量:82.56kWh
●サスペンション:前/ダブルウィッシュボーン 後/マルチリンク
●ブレーキ:前後/ベントディスク

車体価格 ¥5,280,000~

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