「なぜ走るのか?」ーー安定を捨てて進歩を選ぶ。ロードスターで見つけた本当の楽しさ

  • 太田哲也
2026.07.15

前回の自分をトレースしない

僕がNDロードスターでレースを始めるとき、妻が「歳だから遅くてもいい。エンジョイすれば」と言ってくれた。その言葉に救われて、参入できた。

速く走らなければいけないというプレッシャーもなかったし、サーキットを走るだけで楽しかった。

ところが、しばらく走っているうちに、何か物足りなさを感じ始めた。

ロードスターはタイヤをきれいに使い、無駄なく走ることが速さにつながると言われる。僕もその「定説」をトレースするようにそれまで走っていた。

スピンもしない。コースアウトもしない。毎回そこそこのタイムは出る。でも、それは前回の自分をなぞっているだけ。タイムは安定しているけれど、ドラマもない。

「これでは走る意味があるのか?」

次第にそう思うようになった。

前回とは違う走りを試す。失敗を恐れず攻める。その先にある進歩こそが面白いのではないか。

そう考え始めてからは、定説どおりに走るのではなく、自分なりにいろいろ試すようになった。

現役時代、フェラーリでレースをしていた頃の僕のドライビングは、ていねいに限界を探る走りではなく、アクセルを踏み、ドリフトも駆使しながらクルマを動かしていくスタイルだった。

もちろん、NDロードスターはフェラーリとは違うクルマで、正解も違うのは承知している。

しかし、誰かのセオリーをそのままなぞるより、自分の感性を信じて正解を探していくほうが、僕には合っている気がした。

そんなことを考えていたら、昔のことを思い出した。

精神論なんて聞きたくない

まだ若手で、FJ1600からF3へステップアップした頃のことだ。

開幕戦は車両の準備が間に合わず欠場となった。

そして迎えた第二戦。車両の組み立ても遅れ、公開練習が始まっているのに僕はコースへ出られなかった。

結局、初めて乗るF3マシンなのに、ほとんど走れないままレースを迎えることになった。

決勝はフルグリッド30台中12位くらいだった。

自分では「初戦だからまあまあかな」と思っていた。

ところがチームオーナーは違った。

「FJチャンピオンだから乗せたのに、入賞もできないのか。次も同じならクビだ」

そう言われた。

黙っていたが、心の中では「冗談じゃない」と思った。

まともに練習もできなかったじゃないか。

そんな気持ちで腐っていたとき、チーフメカニックだった小倉さんが僕にこう言った。

「いいか太田。乗れなくて悔しいだろう。焦るだろう。その悔しさを次のレースでぶつけるんだ。そうすれば速く走れるんだ」

「精神論なんて聞きたくない」と思った。

でも、その言葉だけは不思議と心の中に残った。

トップカテゴリーに参入できた理由

当時はタイヤ戦争の時代だった。

B社、D社、Y社がしのぎを削り、有力なB社チームはテストもたくさんできた。

僕が所属していたチームはY社ユーザーで、そんな環境ではなかった。

オーナーに「練習走行がしたい」と言ったら、「B社チームのテストを見てこい」と言われ、見学に行くことになった。

その後も、練習走行は相変わらず限られていたが、前半戦の筑波でポールポジションを獲得することができた。

当時はバイアスタイヤからラジアルタイヤへの移行期で、僕は新人だったからバイアスタイヤしか供給されなかった。

それがかえってよくて、たまたま気候や路面条件に合ったのだろう。

もちろん、それだけではなく、自分なりに考え、自分なりの方法で攻めた結果だった。

「Y社のバイアスタイヤでポールポジションを獲った新人がいる」と話題になり、当時トップカテゴリーだったGCのチームから、「最終戦で乗ってみるか」と声を掛けてもらうことにもつながった。

もしあのとき、練習できないことを言い訳にして腐ったままだったら、あのポールポジションも、その後のトップカテゴリーへのステップアップも絶対になかったと思う。

悔しさが僕を攻める走りへ変えた。

あのときは精神論だと思っていた小倉チーフメカの言葉も、今なら分かる気がする。

試行錯誤が自分の感覚と脳を研ぎ澄ます

さて、今は現役ではないし、プロでもない。

乗車手当をもらっているわけでもないから、速く走る義務も責任もない。

でも、だからといって前回の走りをトレースしていても進歩はない。

だから今は、毎回、前回とは違う走りを試そうと考えている。

ラインを変え、ブレーキの使い方も変えてみる。

うまくいくこともあれば、そうでもないこともある。

でも、そうした試行錯誤をしていると、自分の感覚と脳が研ぎ澄まされていくのが分かる。

心も身体も目を覚まし、自分自身が活性化されていく。

安定した日々を過ごすことも大切だ。でも時にはまだ知らない自分に出会うためにチャレンジすることも必要だろう。それが僕が走り続ける理由なのかもしれない。

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