ヒョンデ アイオニック 5Nでレースしたい!
2024.06.27
EVスポーツにはネガを感じていたが・・・
ヒョンデの高性能BEV、アイオニック 5 Nの試乗会のお誘いがあった。会場となるのは袖ヶ浦フォレストレースウェイだ。本コースを使ってのサーキット走行、水を撒いたパイロンコースでのドリフト体験、公道での試乗という3つのメニューを用意しているという。
BEVの試乗会にしては面白い企画だったが、それもそのはず、ブースト機能使用時のシステムトータル最高出力が650PSとなるアイオニック 5 Nは、スタンダードなアイオニック5よりも大容量となる84.0kWhバッテリーを搭載してドライビングの楽しさを追求。BEVなのにサーキット走行もエモーショナルで、同時に優れたドライバビリティも求めているとのことだ。
とはいえ僕は日産 リーフでEVレースに参戦していて、BEVの「限界」についていささか心得がある。ヒョンデはそうは言うけど、実はそれほどでもないんじゃないの?と内心思いながら袖ヶ浦に向かった。
ちなみに、これまでEVレースを走ってきて分かったのは、電気自動車は一瞬だけパワーが出てもそれが持続せず、電欠になる以前に、バッテリーの温度が上がってしまって走らなくなるのである。
リーフはバッテリーの温度が56℃になるとセーフモードになってパワーダウンするが、これは1周2kmの筑波サーキットをだいたい7周したら起こる。で、10周のレースだったらトップスピードでは走り切れない。セーフモードに入ると、後ろから旧型リーフに追い上げられる。それがBEVの現実なのだ。
それで最初から抜かれない程度にアクセルを緩めて走るのだが、これが難しく、どう調整するか考えることに面白みもあるとも言える。おそらく例えば箱根に行って急な山坂道を調子にのってアクセルガンガン踏んで走っていたら、、きっとどこかでセーフモードに入ってしまうだろうな。
試乗会の事前情報で分かっていたのは、アイオニック 5 Nはドイツ・ニュルブルクリンクの北コースを全開で2ラップできるということ。これはBEVとしてはスゴイことだと言われている。
実際に試乗してみると
アイオニック 5 Nの試乗会で、まず初めにやったのはパイロンコースでの8の字ドリフトだ。タイヤが275/35ZR21という超太いサイズだったが、パワーがもりもりで簡単にリアを滑らせることができた。モードの切り替えで前後のパワー配分を任意に変えられるが、デフォルトで、フロントの電気モーターが238PS、リアの電気モーターが412PSという最高出力になっていることも派手なドリフト走行を可能とする要因のひとつとなっている。遊べるBEVという印象であった。
続いて走ったのは、袖ヶ浦フォレストレースウェイの本コースだ。サーキットをガンガン走ってみて感じたのは、「サーキットでよくテストされているな」ということだ。ブレーキはフェードしない、操縦性がいい、アンダーステアとオーバーステアが上手く制御されている、といった感じだったので好感が持てた。
細かい話をすると、前輪の横剛性はスタンダード比で14%アップして、オーバーステア対策を実施。サブフレームにスポット溶接の接着面を追加して強化。ステアリングのギアレシオをクイックにするなど、サーキット走行を見据えたチューニングをマジメにやっているという。イメージと違ってとても乗りやすく、かつ楽しかった。
最後の試乗メニューは公道での走行だ。きっと一般公道用の専用試乗車が用意されているかと思ったら、さっきまでサーキットを走っていたアイオニック 5 Nでそのまま行けという指示。なるほどアイオニック 5 Nはバッテリーの容量に自信ありということがわかった。また道路の目地や橋のジョイント部分を乗り越えたときのショックをやわらげるために足を変えたり、日本で一般的な急速充電方法のCHAdeMOに対応してきた。
かつて韓国人俳優のペ・ヨンジュンが出演していたドラマ『冬のソナタ』の頃に、ヒョンデ製セダンのソナタが日本に上陸したが、まもなくして日本市場から撤退。時を経て再参入となる今回、スポーティな走りを楽しめるゼロエミッション・ビークルを用意してきた。久しぶりの日本再上陸だが、今度のヒョンデは日本市場への参入に本気なのであった。
バッテリーの温度管理も問題なく大丈夫だった。袖ヶ浦フォレストレースウェイを5~6周全開で走ったが、パワーがあるのですぐさまバッテリーがアツアツになってダウンすると思ったが、平気だった。ヒョンデのエンジニアに訊いたら、高性能なクーリングシステムと大容量のバッテリーを装備していることが温度上昇抑制に効いているという。
最高出力が650PSと聞いていたので、乗るまではよほど暴れ馬ではないかと身構えていたが、実際は運転しやすかった。ブレーキも足まわりも安定していて、おそらくかなり時間をかけてテストされているのだろう、よくできたスポーツカーだった。
ヒョンデは世の中の流れに合わせて移動の手段としてのBEVをリリースするのではなく、当初からドリフトやスポーツ走行を楽しめるレベルの俊足BEVを造ろうと思っていたことが分かった。
韓国ではサーキットに急速充電器を用意し、走っては充電し走っては充電しを繰り返して次々コースインするというプログラムがあるそうだ。最後に彼らから「何か要望はあるか」と聞かれたので、「僕もアイオニック 5Nを使ったレースを日本で楽しみたい。日本でも韓国と同じプログラムを用意してほしい」と伝えた。
〇スペック
ヒョンデ アイオニック 5N
●全長×全幅×全高:4, 715mm×1,940mm×1,625mm
●ホイールベース:3,000mm
●車両重量:2,210kg
●モーター:交流同期電動機×2
●最高出力・フロント/リヤ:175kW/4,600-10,000rpm/303kW/7,400-10,400rpm
●最大トルク・フロント/リヤ:370N・m/0-4,000rpm/400N・m/0-7,200rpm
●駆動用バッテリー(容量):リチウムイオン電池(84.0kWh)
●サスペンション・前/後:マクファーソンストラット/マルチリンク
●ブレーキ・前/後:ベンチレーテッドディスク
〇プライス
ヒョンデ アイオニック 5N ¥9,000,000前後