東京での公道レースが初めて実現

2024.04.22

2024年3月30日に東京で初となる公道レースが開催された。「ABB FIAフォーミュラE世界選手権」シーズン10・第5戦 2024 東京E-Prixだ。東京ビッグサイト周辺に設けられた特設コースにて開催されたそのレースを観戦してきた。

フォーミュラEは、モーターのみを動力源とした電動フォーミュラカーによって争われる国際レースシリーズで、電気自動車によるレースの世界最高峰だ。2014年に中国の北京で初開催され、今年は世界の自動車メーカーが編成する11チームがエントリー。排気音ならぬ走行音が小さい電動レーシングカーを使用することから市街地での運営が可能で、今回の日本大会では東京・有明での公道レースが初めて実現した。

レースカーが電気自動車なのでF1マシンのような豪快な排気音を奏でることはなく、静かに走っている様子に感動はないが、東京E-Prixは日本を代表する国際展示場の駐車スペースや公道を使ってのレースで、コース周辺に設けられた観客席から非常に近いところを電動フォーミュラカーがレーシングスピードで駆け抜けていくことになり、その迫力は特筆ものだった。

安全性を考慮して網越しでの観戦となるが、幅が狭い特設コースにはランオフエリアが無いので、まさに観客の目の前を走っていく感じだ。そして、ターン2と3の間に車体がジャンプしてしまうぐらいのバンプがあったり、コースがテクニカルなレイアウトになっていたりして、ドライバーは大変そうだ。

フォーミュラEの車体が大きいのはバッテリーをたくさん積んでいるからだ。昔はバッテリーの容量に問題があって1ヒート目と2ヒート目でクルマを変えていたが、いまは同じ車体で、その日のレースを最後まで戦っている。

そしてウイングなどの空力装置がシンプルかつ頑丈そうな作りで、これは接触を意識したのだろう。ランオフエリアがなく周囲は壁、コース幅が狭い公道レース向きだ。これは共通車体だからこそ実現できたことで、サステナビリティを重要視しながら、さまざまな要素で観客を楽しませようとしていることがわかる。

決勝レースだけでなく、予選も演出が上手いというかエンターテインメント性が高くて楽しめた。フォーミュラEの予選はちょっと独特だ。まず全22台を11台ずつの2グループに分ける。この11台で走行タイムを競い、上位4台が次のデュエルステージへと進む。デュエルステージは、グループ予選の上位8台(4台×2)が1対1のトーナメント形式の対決ムードで進められ、ポールポジションを決めるという仕組みだ。

今回、エンジン搭載車によるレースでは味えないことが他にもあった。それは排気音がゼロなので、レースの実況によるレースカーやドライバーの解説、トップ集団のバッテリー残量をはじめとするレース展開のアナウンスなどがよく聞こえたのだ。このピエール北川さんというアナウンサーが、クルマのことをよく知っており、なおかつ盛り上げ上手なので、まるでゲームを観ているかのような面白さにつながっていた。

実況とともにフォーミュラEってゲームっぽいな、と思わせてくれたのが、一定時間だけ電動フォーミュラカーのパワーがアップするアタックモードだ。ゲームのマリオカートでスターやキノコといったパワーアップアイテムを手に入れるとゴーカートがパワーアップするが、それと同じことが起きる。もちろん、フォーミュラEのレース中にスターやキノコは出てこないが、アタックモードを使用するために、ドライバーは特定のコーナーに設けられたアクティベーションゾーンを通過することになる。

アクティベーションゾーンは、レコードラインから外れた、コーナーのアウト側に設けられているため、ライバルと競っている状況ではタイムロスにつながることがあり、順位を下げてしまうリスクすらある。その一方で、うまく使えばポジションを上げるチャンスを得られる。バッテリーの残量やライバルとの位置関係などを考えながら、いかにアタックモードを上手く活用するかも勝負を分けるポイントとなるのだ。

アタックモードは、決勝中に2度オンにすることが義務づけられている。モーターの出力がアップするので、自ずと使用する電力も大きくなり、レース全体を通したエネルギーマネジメントに影響を与える。また、運動エネルギーを回生させるとバッテリーが長持ちするが、それでは走行スピードが遅くなってしまうので、電動フォーミュラカーによるレースはエネルギーマネジメントの緻密さが重要となるのであった。

エンジン搭載車によるレースでは、金曜日に練習走行、土曜日に予選、日曜日に決勝レース、というのが一般的だが、サステナビリティを重要視しているフォーミュラEは1デイ開催となっており、予選と決勝の間にインターバルがある。

サーキットのレースでは、空いた時間にやることがなくて暇になってしまいがちだが、今回は会場となった東京ビッグサイト内にアリアンツ・ファンビレッジと呼ばれる無料のエンターテインメントゾーンが設けられ、さまざまなアトラクションを楽しめた。

ここではレースのパブリックビューイング、各種アトラクション、車両展示、ステージイベントなどが行われていた。選手との距離が近い、観客席からレースの状況が映し出されたモニターを見やすい、抽選で選ばれるとプロドライバーが運転する最新のEVの助手席に乗って特設コースを走れる、といった特典もあり、お客様サービスをよく考えているな、と感じた。

これまで公道でのレースは日本では実現しなかったが、今回は電動レーシングカーを使用するからということで認められたそうだ。そういう時代になったのだ。電車で気軽に行けるサーキットは、魅力的な存在である。新しいレースファンを獲得できるきっかけとなるだろう。10年間の交渉だったそうだが、関係者の努力に敬意を表したい。

長きにわたってモータースポーツに携わってきた人間として、来年も東京の公道で開催されることになるであろうフォーミュラEをより多くの人たちに現場で観てほしいと思う。