ハッサンの水色号/1974年式アルファロメオ GT1600ジュニア/偏愛日記 その22(所員:高桑秀典)

2023.01.20

先進の安全運転支援システムはもちろん、パワーステアリングやアンチロックブレーキシステムなどの運転サポート機能を装備していない水色号(1974年式アルファロメオGT1600ジュニア)のような旧車は、すべての運転操作を人力で行う必要があります。

走る、曲がる、止まる、というクルマの基本的な動きを、すべてドライバーの操作によってカタチにするわけで、つまり、運転のイロハを習得することができるといえます。このことは、クルマ好き、旧車好きには最上の愉しみになるともいえ、愛車を上手く運転できたときには思わずニヤッとしてしまいます。

トランスミッションがマニュアルですとシフトチェンジのタイミングを考えないといけませんし、愛車がパワーウィンドウではなく手動で窓を開けるタイプの場合、駐車場の出入り口でレギュレターハンドルをグルグル回しながらシフトチェンジすることになります。そう、旧車はスムーズに走らせるためにやらなくてはいけないことがとにかく多く、それが逆に愉しいわけです(人によっては煩わしいかも……)。

ちなみに、前方を見つつ、バックミラーやサイドミラーも駆使して周囲のクルマの動きに注意しながら、ステアリングホイール、アクセル、ブレーキ、クラッチ、レギュレターハンドル、ウインカーおよび各種ライトのスイッチなどを操作することになるので、筆者は水色号をドライブするときに、時折、手足が4本ぐらいずつあればもっと運転がラクになるのに……と思ったりもしています。

ある意味、旧車を運転することは野球漫画「巨人の星」の劇中に登場した大リーグボール養成ギプスをしながら走っているようなものなので、それを外す=昨今のクルマに乗りかえるとさまざまな操作から解放され、安全運転のことだけに集中できるのでありました。

趣味性が高く、しかも運転の基本を学ぶことができる旧車は一石二鳥なので、初心者だからこそ買ってみて、次のステップに進んでいただければと思います。そのまま腕を磨き、旧車の世界を邁進してもいいですし、旧車で運転のイロハを習得し、昨今のクルマに乗りかえて安全運転を続けてもいいので、旧車で始めるカーライフは万事ハッピーだといえるでしょう。

維持管理については、旧車のことをよく理解しているスペシャルショップに任せれば何も問題ありません(それなりのコストがかかりますが……)。ロングランをするたびに主治医のもとに入庫させている水色号は、もうすぐ走行距離が32万kmになるので、地球と月までの距離(38万km)を目指して、これからも走り続けます。

一体いつ頃から真夏に猛暑日が連発するようなことになったのか記憶が定かではありませんが、筆者が水色号を買った1998年からの数年間は、気温が28℃を超えたら乗るのをやめようと思っていました。気象庁のホームぺージで確認したら、最高気温が35℃以上の日を猛暑日、30℃以上の日を真夏日、25℃以上の日を夏日と呼んでいるそうなので、筆者は涼しい夏日(?)に乗っていたわけです。

もはや、最高気温が40℃を超える日もあるほど日本もアツアツなので、ここ数年、旧車に乗ることを自虐的に“罰ゲーム”と言ったりしていますが、冗談ではなく、体温以上の気温の中でエアコンのないクルマを運転すると簡単に熱中症になるので注意したほうがいいでしょう。だったら暑い日に旧車に乗らないようにして、エアコンがばっちり効く最新モデルや涼しい電車で移動すればいいじゃん……と言われてしまえばそれまでですが、旧車好きという生き物はヘンタイが多いので、どうしても乗りたくなってしまうのでありました。

そういえば、2017年に取材で参戦した北海道クラシックカーラリーのときの彼の地がビックリするほどの猛暑日で、寒いだろうな……と思ってトランクに押し込んでいった防寒着の数々を現地で捨ててこようかと思ったほどでした。このときはラリーの取材で、コ・ドラ兼カメラマンの若手編集スタッフが助手席に乗っていたので、コンビニを見つけるたびに冷凍されたペットボトルを大量に買ってきてもらい、首の裏、ワキの下、太ももの間にそれを挟みながら運転していました。そこまでやっても、毎晩ホテルでグッタリしていたので、いま思えばアレは熱中症になっていたのかもしれません。

普段は水色号に独りで乗ることが多いので、三角窓を駆使し、着がえるためのTシャツをたくさん積んで真夏に走っていますが、50歳になって迎えた最初の夏から後頭部に直接風が当たる角度で小型扇風機を設置し、信号待ち時に団扇で身体をクーリングするようにしています(何をやっても、焼け石に水なのですが……)。

旧車で真夏に快適に走るためには、クルマのほうの対策も必要です。具体的には、オーバーヒートやパーコレーションが起きないようにしたいですね。ラジエターは内部が錆びると水の通路が詰まってしまい、冷却効率が落ちるので、そろそろダメかな?と思ったら新品と交換してしまうのが吉です。燃料がキャブレターに到達するまでに気化してしまうパーコレーションは、エンジンルーム内に遮熱板を設置することで防げるケースがあるので、真夏に乗れず、困っているオーナーは試してみるといいでしょう。

小まめな休憩、身体のクーリング、水分補給、そして、渋滞にハマらないようにするドライブ計画をしっかり実践すれば旧車で猛暑日に走ることも可能なので、熱中症にならない程度に愉しんでください。

さてさて、ナニゴトも流行ると、さほど興味がないビギナーが参入してきたり、マネーゲームの対象となったりするのが世の常で、旧車も扱い方を知らない人が購入したり、投機目的で買われてしまったりしています。

’70年代後半に巻き起こったスーパーカーブーム全盛時に小・中学生だったオジサン世代はよく憶えていると思いますが、バブル景気のときにフェラーリ・テスタロッサが“跳ね馬に対するリスペクトがまったくない人々”に乱暴に扱われつつ、ちゃんとした整備もしてもらえなかったので、ひどくコンディションを落としてしまったことがありました。

流行っている旧車の世界も現在似たような状況となっており、ビギナーが昭和のクルマを現代車のように普通に扱い、すぐさま壊してしまったり、さほどメンテナンスしないまま手放してしまうケースが多々確認されています。

フォルクスワーゲンのビートルやカルマンギアやワーゲンバスなどは恐ろしく頑丈なので、現代車のように普通に扱っても大丈夫ですが、例えば同じドイツ車でもナローポルシェはクラッチのつながり方が独特で、慎重にミートすることが求められます。スムーズに発進するためには、繊細なテクニックが必要となるわけです。

往時に、ある人がショップの店頭で納車されたナローポルシェのクラッチミートを上手くできず、家に着く前にクラッチを使い果たしたという都市伝説並みの仰天エピソードがありますが、やはり、旧車ビギナーがナローポルシェを現代車のように普通に扱うのは控えたほうがいいでしょう。

質実剛健なことで知られるドイツの雄がそのような感じなので、ここぞ!というときにかぎって立往生したりして、人生をドラマチックにしてくれることで有名なイタリア車は、より扱うのが難しいといえます。筆者が乗っている水色号は、発進する際にニュートラル→シフトレバーを2速のシンクロに軽く当てる→1速に入れるという順番で毎回ギアを入れています。1速にもシンクロがありますが、そのまま入れるとガリッと鳴る場合があるので、2速のシンクロを利用し、ギアが噛み合うようにしてからシフトしているわけです。

赤信号で停止する際は2速で止まり、ニュートラルで待機。青信号になる直前に素早くクラッチを踏み、既述したようにニュートラル→シフトレバーを2速のシンクロに軽く当てる→1速に入れるという作業を1~2秒で行い、発進しているわけです。筆者の愛機と同世代のアルファロメオは、必ずこの発進作法が必要なので、借りて乗ったりする場合、くれぐれも、いきなり1速に入れるようなことはしないでください。

なお、往年のチンクエチェント(フィアット500)は、ノンシンクロのマニュアルトランスミッションなので、停止時に1速に入れるときだけでなく、2、3、4速にシフトチェンジする際もダブルクラッチ(クラッチペダルを踏んでギアをニュートラルにし、アクセルを踏んでエンジンの回転を上げてから、再びクラッチペダルを踏んでギアを入れる動作)を駆使しないと走れません。見た目こそ愛らしいのですが、実は上手く乗りこなすのが大変なのです。

また、我が水色号はペダルの配置も独特で、アクセルが吊り下げ式で、ブレーキとクラッチがオルガン式のペダルなのです。オルガン式のブレーキペダルとクラッチペダルは、踏み慣れないとクラッチを踏む左足の踵の置き方(動かし方)が難しく、右足がアクセルとブレーキの間を行き来する際に少し気持ち悪い思いをするので、ビギナーは注意してください。

そして、この話は主に1980年までに生産されたクルマのことだと思ってもらえれば幸いですが、旧車はパワーステアリングを装備していないので、ハンドルが重いです。小径だと回せないのでハンドルが大径なのですね。

ウッドステアリングの旧車を運転する際に革の手袋をハメている人をたまに見かけますが、あれはファッションというよりも汗でハンドルを握る手が滑るのを防止しているのだといえます。革の手袋をカッコつけるためではなく、安全性を向上させるためにハメている人も存在するということなので、街で見かけてもイタいヤツだと思わないでくださいね。