激変した新型クラウンに秘めた思い

2023.01.20

今年のカー・オブ・ザ・イヤーで新型クラウンに10点を投じた理由は以前に公開した記事に書いたとおりだが、9月下旬に開催されたメディア向け試乗会に参加した後、カーラボにインプレをアップしていなかったことに気がついたので、改めて、記しておくことにした。

乗ったのはニュークラウン第一弾として登場したクロスオーバーだ。セダンとSUVの中間的存在のモデルである。

以前のクラウンはロイヤルサルーンとアスリートでボディが同じだったが、今回はまったく異なるボディで4モデルも展開することになっていて、エェ~と驚きだ。

個人的には酔って帰宅する際に、タクシー専用車のクラウン・コンフォートではなく、なるべく個人タクシーに多いクラウン・ロイヤルサルーンを選んで乗るようにしている。リアシートの乗り心地が違うからだ。
ということでクラウン(後席)ユーザーとして、今回のモデルチェンジはあまりに劇的なので、クラウンの良い点が失われていたら嫌だな~、大丈夫かな~と心配になっていた。

そもそもクラウンは高級車であるが、ロールス・ロイスやマセラティのような富裕層向けではなく、一般大衆車の頂点に君臨する高級車と言えよう。

ではレクサスはと言うと、先進的な感覚に共感をおぼえる大人のためのクルマで、クラウンとはジャンルが違う感じ。クラウンは革新ではなく保守の代表なのであった。それなのに今回の新型クラウンは、レクサスの方向にぐっと寄った、もしエンブレムがレクサスだったとしても納得してしまいそう。

いったいなぜ、これほどまでに変えたのか開発者に尋ねてみると、16代目(!)を作るにあたって、「もう一度クラウンとは何なのか?」を問うてみたのだという。そしてセダンが不人気の中で新型クラウンを出すことにも疑問を感じる側面もあったらしい。

豊田章男社長に「クラウンをどうします?」と尋ねてみたら、「根本から見直してみたらどうか?」と言われたらしく、スタイルに関しては将来のクルマはどういうものになるか?それに沿ったものにクラウンがなるか?を考えたという。そのひとつの答えがクロスオーバーだったそうだ。

クロスオーバーに秘められた想いとしては、いまの日本の閉塞感を払拭したいというものがあり、販売店もそういうクルマを欲しがっていたという。以前のクラウンでもピンク色のモデルを出していたが、どうやら、あの頃からクラウンは変えるべきだと考えていたようだ。

昔は、クラウンといえばグリルが大きく威厳があり、中小企業の社長さんのクルマというイメージが強かった。しかし、いまの世の中は上司と部下の関係性が変化してフラットになってきたり、また、家庭においては、クルマの購入時における奥さんの意見も強くなってもきている。そのような背景もあって、クロスオーバー登場につながったのだそうだ。

●実際に乗ってみたら
全幅が1800mmから1840mmになっている。1840mmという全幅はプレミアムクラスのクルマとしては決して大きくないが、拡大幅は現オーナーの車庫の問題もあり、40mmが限界だと考えたという。

黒いボンネットも、全幅と同じように「どうかな?」という躊躇もあったそうだが、デザイン上、フェンダーを絞っていることを表現するために、採用に踏み切ったのだそうだ。

実際に乗ってみたら、HV仕様だったが、HVの4WDであることをあからさまにアピールしてこない点がむしろ好印象だった。一般的にHVは減速時にギクシャクしがちだが、この新型クラウンはスムーズで、エンジンからEVへの移行もスムーズ。おそらくガソリン車から乗りかえの年配ユーザーにも違和感はないと思う。

輸入プレミアム車の多くは、スポーティな味つけで足が踏ん張るが、新型クラウンはガチッとした足ではない。ただ、さすがに21インチを履いていることもあり路面からのゴツゴツ感があることは否めない。タクシーの後席でくつろぎたい僕としては、もっと角がとれてほしいので、タクシーの運転手さんには、小径タイヤ&ホイールに変更してほしいナ。

また、リアタイヤを操舵することで小回りがきく点もトピックだ。5.4mという最小回転半径を維持しており、また60km/h以上という速度では反対に同位相になることでコーナーリングの安定性に寄与する。

僕が好感を持ったのは、このDRS(ダイナミックリアステアリング)の効果を主張させすぎずに、あえて控えめにしている点だ。以前のトヨタだったら新技術のアピールをはっきりと出したろうけど、そうすると不自然さを感じてしまいがち。何事もバランスが大事なのだ。

新型は同位相に切ることで、ロールの出方をゆるやかに感じさせることに成功している。

インテリアは物理的スイッチが多めだったので、それもよかった。近頃はタッチパネル式ディスプレイが流行りで、何階層も先に必要なスイッチが存在していたりして、使いづらい。新型クラウンはエアコンのスイッチも物理的なもので、シートのファンの風量調整をしたいと思ったときに、直感的に操作できてよかった。

気になったのは、加速するときにガァーっという大衆車っぽい音がしたことだ。音を遮音してほしい、とは思わないが、今後は高級車なりの良き音も追及してほしい。

結論として、新型クラウンは、エクステリアが変わって、新しい技術も入ったが、これまでのクラウン・ユーザーであっても違和感なく乗れるような使い勝手となっていたことはよかったと思う。

16代目となる長い歴史の中で迎えた大きな転換点での勇気ある決断は、閉塞した日本社会に与えるインパクトが大きいだろうし、従来のユーザーにも受け入れられるだろう運動性や操作性の扱いやすさも評価できる。機能面での新技術も主張しすぎず、全体の中でバランスがよくとれていて、カー・オブ・ザ・イヤーで10点満点に値すると思ったのだ。

 

〇スペック

CROSSOVER RS

●全長×全幅×全高:4930mm×1840mm×1540mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:1900kg
●総排気量:2393cc
●エンジン形式:直列4気筒
●最高出力:200kW/6000rpm
●最大トルク:460N・m/2000~3000rpm
●トランスミッション:Direct Shift-6AT
●フロントサスペンション:マクファーソンストラット
●リアサスペンション:マルチリンク
●ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
●フロントモーター:1ZM/61kW/交流同期電動機
●リアモーター:1YM/59kW/交流同期電動機
●使用燃料(ガソリン):無鉛プレミアム
●燃料タンク容量:55L

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