第四回 廣畑 実 【TEZZO RACERS
CLUB メンバー】
僕の「愛車」はGT2.0JTSセレスピード。ボディーはストロンボリ・グレーで、内装はレッド・レザー。買ってから既に2年半経つのに、いまだに見るたびに「かっこいいな〜」と思う。GTを購入後、ブレラ、159、スパイダー、と次々と売れ筋の新車が出たが、まったく買い換える気さえ起こらない。僕にとって6台目の車だが、僕が自分の車を「愛車」と呼ぶのは、このGTが最初だ。
今日は、僕が何故、僕の車を「愛車」と呼べるようになったのか、そのいきさつとアルファGTの素晴らしさを語りたいと思う。
【車両データ】
走行距離:27,000km
燃費:8.2km/L
出会い
僕のアルファ・ロメオとの出会いは、偶然に偶然が重なったことによる。
僕には元来「車」の定義をはっきり持っていた。
荷物がいっぱい積めて燃費が良くて故障がない。ちょっとした凸凹道など気にもならず、スキーにも気を遣わずに行ける、そんな車こそ「車」と呼べる資格のある車なんだと思っていた。
実際、僕は、インライン・ホッケーのゴール・キーパーをやっていて、アイス・ホッケーのゴール・キーパーとまったく同じ巨大な防具なので、防具を納めるバッグは、さらに輪をかけて「巨大」で、「エスパー伊藤」でなくてもそのバッグに楽に入ってしまえるぐらいだ。
スキーにも車で行くし、ゴルフもよく行くので、車選びの優先順位一番は、ズバリ、「荷物積載量」だった。
だから、前の車(日産ミストラル。2.6リットル、ディーゼル・ターボ、四輪駆動)を無粋なディーゼル・エンジン規制で手放さなければならなくなった時、四輪駆動のステーション・ワゴンを狙って代替車を探していた。
半年を費やして色々探してみたものの、いまひとつ、ピンと来なくて、買いあぐねていた。
そんなある日、前の会社で一緒に働いていた人(ここでは、「N氏」と呼ぼう。)から連絡があり、アルファ・ロメオのディーラーで働き始めたという。そのディーラーは、偶然にも僕の家から車で10分とかからないところにあり、いつもそのディーラーの前を通りかかっていたものの、アルファ・ロメオなんて、1,000万円を下らない、バカ高い車であって、自分には縁のない車なのだと思い込んでいたせいもあって、まったく興味なく、素通りしていた店だった。
N氏は、前の会社で大変お世話になった方だったので、その連絡を受けるなり、陣中見舞に行かねば、と思い、近所のおいしいプリンを差し入れにディーラーを訪れたのだった。
そんな僕を、N氏はいつもの満面の笑顔で迎えてくれた。ひとしきり近況を話した後、N氏は、あまりに素直に、「どう?乗ってみれば?」と気さくに誘ってくれた。
正直、まったく興味がなかったものの、これもひとつの経験だろうと思ったので、乗ることにした。今から思えば考え抜かれたN氏の、僕をアルファ・ロメオに引き入れる策略だったのかもしれない。
まず用意してくれたのは、147だった。N氏が147を一番初めに選んだところに、今から考えれば、仕掛けがあったのかもしれない。
驚いた。アクセルを踏んだら踏んだだけ車がスピードアップする。
「当たり前だろう。」と言うなかれ。長年、ターボ付きとは言え、ディーゼルエンジンに慣れ親しんできた僕だ。アクセルを床まで踏んづけても、エンジンの反応は2テンポ、3テンポ遅れてやってくる。
ところが、147は違った。アクセルをほんの少し踏み込んだだけで、誰かが車を後から押してるんじゃないか、そんな感覚に襲われた。しかもステアリングがクイックなこと。生まれて初めて「運転って、楽しいんだ。」と思った瞬間だった。
その後、156とGTに試乗した後、GTの外観のカッコ良さにすっかり惚れ込んでしまった。3.2は左ハンドルのマニュアルで、運転に気を遣いそうだし、エンジン音も響きすぎて、「風邪ひいて熱出した時に、これ運転して病院に駆け込むのは相当つらそうだな。」という妙な理由でパスした。
2.0のセレ・スピードは面白かった。F1に乗ってる気にさせるパドル・シフト。惚れ込んでしまった。
N氏曰く、「僕も、今、カミさんを説得中なんですよね〜。やっぱり、GTが一番カッコいいし。アルファ・レッドもカッコいいけど、シルバーやストロンボリ・グレーって、GTのラインを際立たせてカッコいいんですよね〜。」
N氏が満面の笑みで語る姿は、GTに惚れ込んだ一人の男そのもので、僕はN氏に完全に影響されてしまった。
決意
スタイルには惚れ込んだ。セレ・スピードも面白い。だが待て待て。ホッケー道具が入るのか。ゴルフバッグが入るのか。
それから数週間、僕はディーラーに通い詰めた。スキーを持っていった。ゴルフ・バッグも持っていった。そして、ホッケーのバッグをGTがこともなげに飲み込んでしまい、リア・ハッチがパタンと閉まった音を聞いた瞬間・・・・・・決めた。「GTを買う。」
それからは、色選びだった。候補は外装色としてアルファ・レッド、シートの色はナチュラル・レザー、という組み合わせか、ストロンボリ・グレーの外装にレッド・レザーの内装だった。僕は、ストロンボリ・グレーにレッド・レザーの実車を見て決めようと、何色がいつ納車されるのかわからない気ままなイタリアンのメーカーと数ヶ月付き合うことを決め、そして、ある日の「来ましたよ!ストロンボリ・グレーのレッド・レザーの組み合わせ。」の連絡に、いてもたってもいられずに、実車を見に行った。そして、決めた。
「これ、買う!」
情報収集
決意までの日々、そして、決意してから納車までの日々は、ひたすら情報収集だった。インターネットを駆使し、雑誌を買い集め、ありとあらゆる情報をかき集めていった。インターネットの掲示板では、どんどん質問し、親切な方からは、懇切丁寧な返事をいただいた。
僕は驚いた。世の中に、アルファロメオを愛する人がこんなにもいて、みんな、車を溺愛していること。アルファロメオをネタに、会合(集会?)がこんなにもあること。アルファロメオを買った人が、車を改造しまくっていること。
そうなんだ。世の中にはこんな世界があったのね。未知の世界へのドアを開けた瞬間だった。そのドアは、世の中という壁の中ではちっぽけで、素通りしがちな目立たないドアだったが、いったんドアを開けると、そこには赤色の、奥が深くて、それでもちっとも怖くない、楽しい世界が広がっていた。
納車
今日はいよいよ納車の日。ミストラルとの記念写真を撮り、別れを告げた。故障もほとんどなく、燃費もよく、いろんなところに一緒に行ったっけ。冬山が多かったな。ありがとう。君は、ほとんど故障もなく、頼もしかったよ。
そして、ディーラーに到着した。僕の車が店先に飾ってあった。車に駆け寄って僕が真っ先に見たのはタイヤだった。インターネットの情報収集で、GTのタイヤには、ブリヂストン、グッドイヤー、ピレリの3種類があり、ランダムに装着されていてチョイスすることができないと聞いていたからだった。「最初に見る場所違いますよ。」ディーラーの方に苦笑されながら、グッド・イヤーであることを確認した。
愛車との日常
僕が愛車に乗れるのは、週末に限られる。その週末が来るのが、2年半たった今でも楽しみで仕方がない。車庫に行く度に、未だにそのカッコよさに見とれてしまうし、そんなカッコいい車のオーナーであることに誇りを感じている。
走りや音を楽しんで、「運転することの楽しみ」を乗るたびに感じているが、それでいて、実用性を兼ね備えていることに感心する。
ホッケー道具はますます大きくなったが、後部座席を倒したステーションワゴン並みの積載量は、余裕で益々巨大化した道具を飲み込んでしまう。後部座席を片方だけ倒して、ゴルフバッグを3つ積んで、3人でゴルフに出かけることもある。1週間の長い休みが取れた時は、大型スーツケースを2つ積んで、成田空港近くの駐車場まで車で行き、そこに車を置いて海外旅行に出かける。
そんな週末なので、週末に電車に乗ることはほとんどない。
それより何より、「荷物が載らなきゃ車じゃない」と思っていただけの僕が、今ではサーキットを走っているのだった。
雑誌「アルファ&ロメオ」の記事に「おやじレーサーズ募集!」という見出しを見つけ、興味深く読んだ。それからの成り行きは、TEZZO
RACERS CLUBのホームページに掲載された僕のサーキット走行初体験記に詳しく書いた
http://www.tezzo.jp/tezzo-racers-club-page-report-3.htm
ので、ここでは説明を省く。ただ、こんな偶然のアルファ・ロメオとの出会いがなかったら、太田さんに会うことも、僕がサーキットを走ることもなかっただろうと思うので、つくづく、運命って面白いなぁ、と感じる。僕にアルファ・ロメオを試乗させてくれたN氏に深い感謝の気持ちで一杯だ。
さて、その後のN氏。奥様との交渉結果は聞きそびれたが、N氏が選んだ車は、GTではなかった。それどころか、N氏はなんと、アウディTTを買ってしまったのである。
N氏は、また、満面の笑顔で、ディーラーに来たお客さんに、「アルファ・ロメオっていいですよ〜!」って言っておきながら、お客さんから「ところでNさんは何に乗っているのですか。」と尋ねられると、悪びれもせず、「アウディTTです。」と平然と言ってのけては、どうやってか、お客さんをアルファ・ロメオのとりこにしている不思議な人なのである。
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